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2014年11月11日

sinon「すわりごこちのいい椅子」「すこし歩こうよ」

すわりごこちのいい椅子/sinonすこし歩こうよ/sinon

下北半島在住とか、シングルマザーとか、薄幸そうな風貌とか、まるで演歌のようなプロフィールをひっさげて2013年にデビューした女性シンガーSinon。私がこの人を知ったのは、偶然見かけたNHK「みんなのうた」の「おつきさまのうた」です。とても正当派なボサノヴァ、それにぴったりな声質と歌い方、これはなんだろうと興味をもって調べたら、ミニアルバム2枚出ていましたので、早速購入して聴きました。非常に好みな声なので、すごく期待しているのですが、その分少々辛口になります。多分、もともとがフォーク・シンガーなんですよね。でもこれだけうまく英語の歌が歌いこなせるんですから、正直、かなりもったいないことしています。

「すわりごこちのいい椅子」
1. 星めぐりのうた
YouTubeに公式ビデオがあります。この透明感のある声で、東北在住、宮沢賢治の詩ときた日には、こういう路線だろうなと思うわけじゃないですか。土着型の素朴なフォーク・シンガー。地元にファンが多いのかな?

2. As Time Goes By ~時の流れに身をまかせ~。テレサ・テンの名曲をカバー。但し英語。1曲目と全然違う雰囲気になったのは、間違いなく英語のせい。昭和歌謡に英語がのっかって、懐かしいソフトな雰囲気に。これはなかなか。

3. 母の想ひ
オリジナル。Mammy Sino時代に発表した曲。歌詞は本人によるもの。夏川りみの「涙そうそう」みたいなこの歌い方、あぁ、やっぱりこういう路線なのかなぁと。私の好みではないです。ちょっと辛気くさいので。

4. Silent Voice
オリジナル。Mammy Sino時代に発表した曲。ヒーリング・ミュージック調。曲やアレンジは悪くはないですが、やっぱりこの歌い方はどうもダメですね。

5. Desperado
イーグルスの名曲のカバー。ようやくここに来て、このアルバム買って良かったなと思えた次第です。英語の曲の方がうまいし、合ってる。っていうか、これは完全にカレン・カーペンターの歌い方ですね。

6. 今夜だけきっと
スターダストレビューのカバー。60'sポップスをベースにした昭和ポップス。歌い方をかわいい系に設定していますが、あぁ、こういう人いたよね、誰だっけ?くらいの感じで、ピンと来ません。

7. 初恋 ~Down By The Sally Gardens~
高石ともやが日本語歌詞をつくりましたが、アイルランド民謡。ピュアな感じと辛気くさいとのラインは本当に微妙で、どちらに転がるかは聴き手によります。英語で歌えば、ピュアさが勝ったんじゃないかと思います。

8. Time To Say Goodbye
アンドレア・ボチェッリのイタリア語歌詞をサラ・ブライトマンが英語にして歌った曲。これが歌えるのだから、歌唱力に自信があるのだということはわかります。透明感のある声にも合っているし、ノーブルな感じがして、これはいいです。

「すこし歩こうよ」
1.恋の出来事
オリジナル。YouTubeに公式ビデオがあります。60's Popsベースの昭和ポップスで、今度は竹内まりやですね。というか、アレンジが山下達郎。コーラスとか。声質とは合ってるんですが、なんか歌い方がポップじゃないんで、どうも今ひとつ。ビデオもまるで似合ってない。ただ、前のアルバムの「今夜だけきっと」よりは良いです。シンガー遠藤響子(遠藤京子)提供の曲。私は山田太一オタクだったので、「輝きたいの」というテレビドラマの主題歌を歌っていたことを覚えています。

2.花のように
オリジナル。良い曲だなとは思いますし、合っているのだけれど、すごく印象に残る、というわけではありませんね。普通っぽいというか...。

3.YESTERDAY ONCE MORE
おそらく、ずっとカレン・カーペンターに似ていると言われてきたのでしょうね。もう、いいから、思い切って、まんまやっちゃおうと。あまりに似ているので、笑いました。アレンジは好きですし、思い切りの良さはすごく感じられていいですね。どんどんやっちゃえばいいんです。せっかく良い声をしているのだから。

4.I wish
Mammy Sino時代に発表した曲。オリジナルの中では一番良い曲だと思います。自信作のようですが、私の好みではないです。

5.あ は は は
オリジナル。日本の女性シンガーって、ロック系でない場合は結局、1970年代の大貫妙子と矢野顕子の流れ、森山良子などのフォーク系、ポップスはちょっと後になりますが竹内まりやのいずれかの流れに属してしまうのかなぁ(松任谷由実は孤高かも)。こういう歌い方は、ちょっともったいない感じがしますね。宝の持ち腐れというほどではありませんが。

6.Gift
オリジナル。シティ・ポップスというよりは、少しだけ湿った感じですね...。良い曲ですが、あぁ、いわゆる女性シンガーだなって感じです。

7.Serendipity
オリジナル。「セレンディピティ」は造語なので、日本語には訳しにくいですね。でも、この曲の歌詞はその通りですね。1990年代の女性シンガーたちの香りがします。懐かしい。


8.おつきさまのうた
NHK「みんなのうた」2014年10月~11月期に放送中の曲。アニメもかわいらしい。ボサノバ界の大御所、中村善郎さんの作曲。いかにもボサノバなささやくような歌い方でぴったりと合っています。曲も素晴らしい。

9.Let it go
「アナと雪の女王」のあの曲です。こういうのも売るためには必要でしょうね。それに歌唱力を全面に押し出す曲が一曲はいるのは悪いこととは思えません。
買って良かったなと思ったのは「おつきさまのうた」と「YESTERDAY ONCE MORE」だけですね...。

実に器用なシンガーです。歌もうまいし、音域は結構広そう。特に低音がいい。いろいろと実験している感じがあります。これだけ多くの女性シンガーがいる中で頭一つ抜け出すには、本人の指向性やマーケットも大事ですが、ニッチな方向に特化していった方が良いと私は思います。そういう意味では、もし今彼女がブレイクしつつあるのだとしたら、「おつきさまのうた」のおかげなのでしょうから、この路線でいくべきだと思います。低音をベースに、落ち着いた大人のジャズ・ボサノヴァが歌えるようになってくれると、私は嬉しいです。雰囲気も変えて、透明感のある薄幸美人というよりは、若干セクシーな路線の方でいけると思うんですけどね。

バリエーションが広いのは良いと思うのですが、ベースとなるラインはないと。ただ、それだけのバック(曲、アレンジャー、プロデューサー)が得られるかどうか。結局のところ、自分の声をプロデュースするのは女性シンガー自身なんです。どういうパートナーやスタッフを選んでいくのかが重要なんだなぁと思います。だから私は女性シンガー一人よりは、レベルの高いコンポーザーと女性ボーカルというユニットが好きなんだろうなぁということが、よくわかりました。

今、ボサノバの大御所・中村善郎さんをせっかくつかまえたのだから、このコネクションを生かせないのかなぁ。ボサノバやジャズ系のバンドで、看板になるような美人で声の良いシンガーを探しているところ、たくさんあると思うんですけどね。一人で歌わせておくの、実にもったいないです。


「すわりごこちのいい椅子」
1. 星めぐりのうた
2. As Time Goes By ~時の流れに身をまかせ~
3. 母の想ひ
4. Silent Voice
5. Desperado
6. 今夜だけきっと
7. 初恋 ~Down By The Sally Gardens~
8. Time To Say Goodbye

2013.10.2 Mastard Record LNCM-1031


「少しあるこうよ」
1.恋の出来事
2.花のように
3.YESTERDAY ONCE MORE
4.I wish
5.あ は は は
6.Gift
7.Serendipity
8.おつきさまのうた
9.Let it go

2014.10.22 Mastard Records LNCM-1069