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スペイン文学

2011年10月 4日

仔羊の頭/フランシスコ・アヤラ

仔羊の頭/フランシスコ・アヤラ1940年代~50年代に書かれたが、1978年にようやく出版された本だそうだ。スペイン市民戦争は内戦であるという性質上、第二次大戦終結を戦後文学と呼ぶ他のヨーロッパの国々と異なるように見える。内戦終了後に暗黒時代が始まり、実に1975年まで続いているのだから、そもそも「戦後文学」なる言葉はスペインにはあてはめにくいのだろうなと感じた。

表題作「仔羊の頭」はモロッコ旅行中に血縁があると言い張る一家に出会ったことで、戦時中に叔父を見捨てたことがフラッシュバックしてしまう男の話。「帰還」「タホ川」はまさに"帰還文学"。戦後もすぐに表へ出て行けなかった微妙な立場の反体制側の市民の物語が「名誉のためなら命までも」。「言伝」だけがよくわからなかったが、訳者解説によると内戦前の物語で、その後の家族の中での分裂を矮小化したものだという。

著者本人が序文で述べているように、スペイン市民戦争は外国人の手で書かれることが多かったが、これは内側からの声である。ヒロイズムに浸っている「誰がために...」のような作品ではその真実はまるで伝わらない、とでも言いたいのだろうか(きっとそうだと思いたい)。

フランコ時代の陰惨な分裂がこの国にもたらした負の遺産をどう払拭するか、の方ばかり私は見てきた。ではどういう分裂だったのかを庶民のレベルで教えてもらえたことは意義があった。

内容的には興味のある本なのだが、この装丁のせいか手元においておきたいと思うほどではなかったので、めずらしく図書館を利用した。そうして良かったと思う。繰り返し読むほどでも、線を引いておきたいというほどでもない。スペイン現代史に通り一遍の知識しかないので、勉強にはなったが、楽しめたかと言われるとそうでもない、というのが率直な感想。アラヤでもアジャラでも別に構いませんが、ジョサというわりにはアラヤなんだなと。

■書誌事項
著者:フランシスコ・アラヤ著,松本健二,丸田千花子訳
書誌事項:現代企画室 2011.3.31 270p ISBN978-4-7738-1010-3
原題:La cabeza del cordero: Fransisco Ayala, 1949,1962

■目次

言伝
タホ川
帰還
仔羊の頭
名誉のためなら命も

2011年3月 3日

ポータブル文学小史/エンリーケ・ビラ=マタス

ポータブル文学小史秘密結社シャンディと聞いてスターンの「トリストラム・シャンディ」をパっと思い浮かぶくらいのことは出来ても、この小説に出てくる登場人物や文学的な概念をすべて理解できるはずがない。でも私にもここに登場する文学史にまつわるイメージや語彙にドキドキすることが出来る。そんな「ポータブル文学小史」は「バートルビーと仲間たち」のエンリーケ・ビラ=マタスの翻訳だ。なんと言っても博覧強記という言葉がぴったりなビラ=マタスのこと、相当深い知識を持つ人しかわからないのではないだろうか?

私にわかるキーワードは、例えば、ジョージア・オキーフやポーラ・ネグリが自らを指して言う「宿命の女」(自分で自分のことを宿命の女と呼ぶパターンは見たことがない)や、プラハに行ったとたんに登場するオドラデク(カフカの「父の気がかり」)といったところ。「独身者の機械」もいい言葉だ。デュシャンの友人ミッシェル・カルージュの著書の名だったりする。

登場人物はおおむね同時代人なのだが、突然マリリン・モンローの名があがってきたり、どこからがフィクションでどこからがノンフィクションなのか、「バートルビー...」同様よくわからない。とりあえず全部フィクションと思っておいて読んでいき、後から本当のことを確認したいと思った。誰か解説書を出して欲しい(他力本願)。最後に出てくる書誌が本当っぽいので、きっと全部読み込めばわかるのだろうけれど、とても無理。

つまり、彼は非の打ち所のないシャンディだった。典型的な社交好きの教養人で、個々の特異性を蔑視することなく、国境を越えた国際的な文化を、両大戦間に生まれた美しい理想であった広々とした地平線と大いなる起源を持つ世界を求めていた。(p54)

なるほどね。デジタルグッズの世界では「ポータブル」という言葉はもはや使われなくなっているようだ。それは「携帯する」「持ち運べる」ことがあまりにも当たり前になってしまったからだろうか。「ポータブル」って良い意味での軽さが感じられて、かつ多少古めかしいところも好きだ。

サイン入り200部限定「特装版ポータブル文学小史」16,800円の豪華版が出るそうだけれど、これは本当に好事家向け。将来価値が出るかもしれない。

著者:エンリーケ・ビラ=マタス著,木村榮一訳
書誌事項:平凡社 2011.2.14 188p ISBN978-4-582-83445-1
原題:Historia abreviada de la literatura portátil, Enrique Vila-Matas, 1985


おまけ:シャンディ名鑑
理解を少しでも深めようと思い、巻末にあったシャンディ名鑑をデジタル化・横書き化してWikiにリンクを貼り、一通り読みました。再読するときはリンクをクリックしながら読めばいいかなと。

アサーニャ,マヌエル(Manuel Azaña)1880~1940年。スペインの政治家。
アポリネール,ギヨーム(Guillaume Apollinaire)1880~1918年。フランスの詩人。
アルトー,アントナン(Antonin Artaud)1896~1948年。フランスの詩人・演劇人。
アルプ,ハンス(Hans Arp)1887~1966年。アルザスの彫刻家・詩人。
アルフォンソ13世(Alfonso XIII) 1886~1931年。スペイン国王。
アルベルティ,ラファエル(Rafael Alberti)1902~99年。スペインの詩人。
アレンズパーグ,ウォルター(Walter Arensberg)1878~1954年。アメリカの美術品蒐集家。
アロンソ,ダマソ((Dámaso Alonso)1898~1990年。スペインの詩人。
アンタイル,ジョージ(George Antheil)1900~59年。アメリカの作曲家。
ヴァグナー,リヒャルト(Richard Wagner) 1811~83年。ドイツの作曲家。
ヴァルザー,ローベルト(Robert Walser)1878~1956年。スイスのドイツ語作家。
ヴァレーズ,エドガー(Edgar Varèse)1883~1965年。アメリカの作曲家。
ヴァレリー,ポール(Paul Valéry)1871~1945年。フランスの詩人・小説家・評論家。
ヴァンセット伯爵夫人(Condesa de Vansept) おそらく架空の人物。
ウィドブロ,ピセンテ(Vicente Huidobro)1893~1948年。チリの詩人。
ヴィルジリオ(Virgilio)おそらく架空の人物。
ウェルズ,H・G(H.G.Wells)1866~1946年。イギリスの小説家・批評家。
ヴェルテル(Werther)ゲーテ『若きヴェルテルの悩み』の主人公。
エヴァリング,ジェルメーヌ(Germaine Everling)生没年不詳。フランシス・ピカビアの重要なパートナーだった女性。
エジソン,トーマス(Thomas Edison)1847~1931年。アメリカの発明家。
エリオット,T・S(T.S. Eliot)1888~1965年。イギリスの詩人。
エルンスト,マックス(Max Ernst)1891~1976年。ドイツで生まれフランスで活躍した画家。
オキーフ,ジョージア(Georgia O'Keeffe)18871 1986年。アメリカの画家・彫刻家。
オレンゴ,カルラ(Carla Orengo)おそらく架空の人物。
カフカ,フランツ(Franz Kafka)1883~1924年。チェコのドイツ語作家。
ガルシーア・ロルカ,フェデリーコ(Federico García Lorca)1898~1936年。スペインの詩人。
カーロス・ウィリアムズ,ウィリアム(William Carlos Williams)1883~1963年。アメリカの詩人・小説家。
ギャツピィ(Gatzby)フィッツジェラルド『偉大なギャツビィ』の主人公。
キャネル,スキップ(Skip Canell)おそらく架空の人物。
クウィントゥス・ウァレリウス(Quintus Valerius)生没年不詳。紀元前239年にローマ帝国の執政官を務めた人物。
クライスト,ハインリッヒ・フォン(Heinrich von Kleist)1777~1811年。ドイツの劇作家。晩年,失意のうちに人妻とヴアンゼー湖畔でピストル自殺した。
クラウス,カール(Karl Kraus)1874~1936年。オーストリアの批評家・詩人・劇作家。
クラーク,エドワード(Edward Clark)1811~82年。ミシンの製造販売で有名なシンガー社の弁護士兼副社長。
グリス,フアン(Juan Gris)1887~1927年。スペインの画家。
クルプスカヤ,ナデジダ(Nadezhda Krupskaya)1869~1939年。ロシアの政治家。レーニンの妻。
クレー,パウル(Paul Klee)1879~1940年。スイスで生まれドイツで活躍した画家。
クローデル,ポール(Paul Claudel)1868~1955年。フランスの劇作家・詩人・外交官。元駐日大使。
クローリー,アレイスター(Aleister Crowley)1875~1947年。イギリスの神秘主義者・魔術師。
クロンベル夕,へルマン(Hermann Kromberg)おそらく架空の人物。
ゲーテ,ヨハン・ヴォルフガング・フォン(Johann Wolfgang von Geothe)1749~1832年。ドイツの作家・政治家。
コクトー,ジャン(Jean Cocteau)1889~1963年。フランスの詩人・芸術家。
ゴーディエ=ブジェスカ,アンリ(Henri Gaudier-Brzeska)1891~1915年 フランスの彫刻家。
コノリー,シリル(Cyril Connolly)1903~74年。イギリスの批評家。
コレット(Colette)1873~1954年。フランスの作家。
ゴンゴラ,ルイス・デ(Luis de Góngora)1561~1627年,スペインの詩人。
ゴンブローヴィッチ,ヴィトルド(Witold Gombrowicz)1904~69年。ポーランドの小説家・劇作家。
サヴィーニオ,アルベルト(Alberto Savinio)1891~1952年。イタリアの作家・画家。
サティ,エリック(Erik Satie)1866~1925年。ブランスの作曲家。
サンドラール,ブレーズ(Blaise Cendrars)1887~1961年。スイス出身のフランス語詩人・小説家。
サンドラール,ミリアム(Miriam Cendrars)プレーズ・サンドラールの娘。父の伝記を書いている。
ジェイムズ,へンリー(Henry James)1843~1916年。アメリカで生まれイギリスで活躍した作家。
シャガール,マルク(Marc Chagal)1887~1985年。ロシアで生まれフランスで活躍した画家。
ジャコメッティ,アルベルト(Alberto Giacometti)1901~66年。スイスで生まれフランスで活躍した彫刻家。
シャトーブリアン,フランソワ=ルネ・ド(rançois-René de Chateaubriand)1768~1848年。フランスの政治家・作家。
シュヴィッタース,クルト(Kurt Schwitters)1887~1948年。ドイツの芸術家。
シュトロハイム,エーリッヒ・フォン(Erich Von Stroheim)1885~1957年。アメリカの映画監督。
シュルツ,ブルーノ(Bruno Schulz)1892~1942年。ポーランドの作家・画家。
ジョイス,ジェイムズ(James Joyce)1882~1941年。アイルランドの小説家。
ショーベンハウアー,アルトゥル(Arthur Schopenhauer)1788~1860年。ドイツの哲学者。
ショーレム,ゲラシム(Gershom Scholem)18971982年。イスラエルの宗教史学者。
ジョンソン,ロパート(Robert Johnson)1911~38年。アメリカのブルースマンと同一人物かどうかは不明。
ズヴェーヴォ,イターロ(Italo Svevo)1861~1928年。イタリアの作家。
スターン,ロレンス(Laurence Sterne)1713~68年。イギリスの作家・牧師。
スレダ,ヤコボ(Jacobo Sureda)1901~35年。スペインの画家・詩人。
ゼニット,ステファン(Stephan Zenith)おそらく架空の人物。
セリーヌ,ルイ=フェルディナン(Louis-Ferdinand Céline)1894~1961年。フランスの作家。
セルナ,ラモン・ゴメス・デ・ラ((Ramón Gómez de la Serna)1888~1963年。スペインの作家。
セルヌーダ,ルイス(Luis Cernuda)1902~63年。スペインの詩人。
タイフォン,アンソニー(Anthony Typhon)おそらく架空の人物。
ダリ,サルパドール(Salvador Dalí)1904~89年。スペインの画家。
チャパス,フアン(Juan Chabás) 1910~54年。スペインの詩人。
ツァラ,トリスタン(Tristan Tzara)1896~1963年。フランスの詩人・ダダイズムの祖。
テイゲ,カレル(Karel Teige)1900~51年。チェコの芸術家・批評家。
ティラナ,エルサ(Elsa Tirana)本文中ではクレオ・メロードのペンネームとされているが,そのような事実はないと思われる→メロード,クレオ・ド
デュシャン,マルセル(Marcel Duchamp,)1887~1968年。フランスの画家。
デ・ラ・メア,ウォルター(Walter De La Mare)1873~1956年。イギリスの詩人・小説家。
ドーマル,ルネ(René Daumal)1908~44年。フランスの詩人・小説家・哲学者。
ドラキュラ伯爵(Drachula)いわずと知れた人物。
ナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte)1769~1821年。フランスの軍人・第一帝政の皇帝。
ニーチェ,フリードリッヒ(Friedrich Nietzsche)1844~1900年。ドイツの哲学者。
ネグリ,ポーラ(Pola Negri)1894~1987年。無声映画時代に活躍したポーランド出身の女優。
ネズヴァル,ヴィーチェスラフ(Vitězslav Nezval)1900~58年。チェコの詩人。
パウンド,エズラ(Ezra Pound)1885~1972年。アメリカの詩人・批評家。
パートルビー(Bartlebe)メルヴィルの小説の登場人物。ある日突然筆を折ってしまう作家について用いられることがある。ピラ=マタス『パートルピーと仲間たち』参照。
バリェッホ,セサル(César Vallejo)1892~1938年。ベルーの詩人。
ピエドマ,ハイメ・ヒル・デ(Jaime Gil de Biedma)1929~90年。スペインの詩人・エッセイスト。
ピカピア,フランシス(Francis Picabia)1879~1953年。フランスの詩人・画家。
ビーチ,シルヴィア(Sylvia Beach)1887~1962年。アメリカで生まれフランスで活躍した書店主。
ピム,アーサー・ゴードン(Arthur Gordon Pym)ポーの小説の主人公。
フィッツジェラルド,スコット(Scott Fitzgerald)1896~1940年。アメリカの小説家。
フェルメール,ヨハネス(Johannes Vermeer)1632~75年。オランダの画家。
フェレンツ,サライ(Szalay Ferenc)フェレンツもサライもハンガリーによくある氏名だが,おそらく架空の人物。
プッチーニ,ジャコモ(Giacomo Puccini)1858~1924年。イタリアの作曲家。
プラードス,エミリオ(Emilio Prado)1899~1962年。スペインの詩人。
プラトン(Platon)前227~前347年。古代ギリシャの哲学者。
プランショ,モーリス(Maurice Blancho)1907~2003年。フランスの作家・批評家。
ブルースト,マルセル(Marcel Proust)1871~1922年。フランスの小説家。
ブルトン,アンドレ(André Breton)1896~1966年。フランスの詩人・シュルレアリスムの領袖。
プロッホ,ヘルマン(Hermann Broch)1886~1951年。オーストリアの作家。
ベーカー,ジョセフィン(Josephine Baker)1906~75年。アメリカで生まれフランスで活躍したダンサー・歌手。
ベソア,フェルナンド(Fernando Pessoa)1888~1935年。ポルトガルの詩人。
ベールイ,アンドレイ(Andrei Belyi)1880~1934年。ロシア=ソ連の詩人・小説家。
ベルガミン,ホセ(José Bergamín)1895~1983年。スペインの詩人。
ベルナット夫人(Pernath)おそらく架空の人物。
ベンヤミン,ヴァルター(Walter Benjamin)1892~1940年。ドイツの思想家。
ボカンヘル,ガブリエル(Gabriel Bocángel)1603~58年。スペインの詩人・劇作家。
ボカード,ベルタ(Berra Bocado)おそらく架空の人物。
ボードレール,シャルル(Charles Baudelaire)1811~67年。フランスの詩人。
ホラン,ウラジーミル(Vladimir Holan)1905~80年。チェコの詩人。
ポルヘス,ホルへ・ルイス(Jorge Luis Borges)1899~1986年。アルゼンチンの小説家・詩人。
マイリンク,グスタフ(Gustav Meyrink)1868~1932年。オーストリアの小説家。
マリネッティ,フィリッポ・トンマーゾ(Filippo Tommaso Marinetti)1876~1944年。イタリアの詩人・未来派の創始者。
マルー,リタ(Rita Malú)おそらく架空の人物。
マン,トーマス(Thomas Mann)1875~1955年。ドイツの小説家。
マンデリシュターム,オーシップ(Osip Mandelshtam)1891~1938年。ロシア=ソ連の詩人。
マン・レイ(Man Ray)1890~1976年。アメリカの写真家・画家・彫刻家。
ミショー,アンリ()1899~1984年。ベルギーの詩人・画家。
ムディヴァニ王子(Serge Mdivani)1903~36年。グルジアで生まれ。パリの社交界でグルジアの王子を自称していた。
メルシーナ〔メリュジーヌ〕(Melusine)フランスの民間伝承上の蛇女。ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスター』に登場する絶世の美女。
メロード,クレオ・ド(Cléo de Mérode)1875~1966年。オーストリア出身のバレリーナ。
モーラン,ポール(Paul Morand)1888~1976年。フランスの小説家。
モンロー,マリリン(Marilyn Monroe)1926~62年。アメリカの映画女優。
ラカン,ジャック(Jacques Lacan)1901~81年。フランスの精神分析学者。
ラルボー,ヴァレリー(Valery Larbaud)1881~1957年。フランスの小説家・批評家。
ランボー,アルチュール(Arthur Rimbaud)1854~91年。フランスの詩人。
リウィウス(Livius)前59~後17年。ローマの歴史家。
リゴー,ジャック(Jacques Rigaut)1899~1929年。フランスのダダイスト。
リトパルスキー,ヴェルナー(Werner Litbarski)おそらく架空の人物。
ルーセル,レーモン(Raymond Roussel)1877~1933年。フランスの作家。
ルルス,ライムンドゥス(Raimundus Lullus)1235~1316年。カタルーニャの神秘的哲学者。
レジナ,マヌエル(Manuel Regina)おそらく架空の人物。
レーニン,ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ(Vladimir Il'itch Lenin)1870~1924年。ロシアの革命家・政治学者。
レルガルシュ(Lelgoualch)ルーセル『アフリカの印象』の登場人物。
ローズ・セラヴィ(Rose Sélavy)マルセル・デュシャンの創作した人物。

2010年8月15日

螺旋 サンティアーゴ・パハーレス

螺旋 サンティアーゴ・パハーレス木村榮一先生の翻訳したものならつまらないはずはないと思い刊行直後に購入したのだが、少し軽めだという書評を見て、良い意味でそれならもったいないから夏のバカンスで読もうと思って積んでおいた作品。

本格ミステリにはほど遠く、文芸作品でもないが、エンターテイメント性の高い良い小説だと思う。版元としては実際微妙だったのかもしれない。だからミステリふうな帯になるのだろう。二転三転というほどのストーリーではないので、あまり誠実な帯文句とは言えないが、売るためには多少仕方あるまい。

話はやはりネタバレしない方が良いのだろうなと思いつつ、トマス・マウドという作家を探す編集者ダビッドのストーリーとマドリーの麻薬中毒患者フランの脱麻薬ストーリーの二本立てで出来ている。結構早い段階でトマス・マウドが誰かわかった。が、結論からいうとそれは正解ではなかったのだが、完全な間違いでもなかった。

最初は秘書エルサのお話と3本立てかと思ったが、エルサの話がフランの物語に吸収されていくので、結局は2本立てになる。私にはダビッドのスラップスティックというより単に間抜けな探偵物語より、フランの脱麻薬の話の方が緊張感があって、いつまた注射してしまうんだろうとハラハラしながら読んだのでよほどおもしろかった。フランの友人のレケーナのITの下っ端で酷使されまくりの話も身近な話だった。少し前に書かれた小説だから若干古い部分はあるが、こんなふうに軽く扱われてしまう若い人は今でもいるのだろう。スペイン人も夜中まで働くんだなぁと妙に感心する。

ダビッドの方は生活を変えるチャンスはあったのにあえてそうせず、レケーナはどうしても生活を変えたくて思い切った行動をし、いずれも求めていたものは得られそうなので、それそれでよかったが、今ひとつ納得いかない点もある。それから、フランがエルサの鞄を奪った件はマルタにちゃんと話したのかどうか、エルサに謝ったのかどうか、書いてなかったような気がする。

ヴィレッジブックスはこれまでも木村先生の訳で現代スペイン文学の「黄色い雨」「狼たちの月」を出版しているが、リャマサーレスの格調高さに比べると、雰囲気はまるで違う。けれど、魅力的な若い作家が出てきているのはよくわかった。パハーレスはポール・オースターが好きというくらいだから、過去のスペイン文学とは違う傾向をもっている。2作目3作目は木村先生の弟子の人とかに訳してもらい、木村先生ご自身はどんどん新しい作家を見つけてください。

■著者:サンティアーゴ・パハーレス著,木村榮一訳
■書誌事項:ヴィレッジブックス 2010.2.27 ISBN4-86332-223-2/ISBN978-4-86332-223-3
■原題:El paso de la hélice, 2004: Santiago Pajares

2009年10月12日

知恵の木 ピオ・バローハ

知恵の木100年以上前のマドリーの様子を知ることに何の意味があるのかというと、やはりあの不思議なスペイン人気質というものをなんとなく実感のあるものにするために…とでも言うべきか。本当は今現在のこういう下町の姿とか、知ることが出来たら良いのになぁと思うのだが。それにしてもスペイン文学とはちょっと思えない、日本やドイツの近代文学くささというか教養文学くささを感じる。知識階級の青年はどうあるべきか、社会に対してどのような態度をとるべきか、というような内省的な内容。社会の不正に対して憤るが、生活もせねばならない。真っ向から悲惨な貧困を目の当たりにしてやられてしまったり、田舎の人々の旧く頑なな精神に触れ、誤解を受けたり、とよくある話だが、まるで明治の文豪の書いたもののようだ。時代としては同じものなので、当然と言えば当然か。

医学生~医者になって直後くらいの時期の若い青年の物語。途中叔父とのだらだらとした会話を挟んで、学生時代と医者になってからの苦労話が語られる。途中、幼い弟に心を砕くところは泣けるが、それ以外はどうにも理屈専攻でちょっと面倒くさい青年だ。最後の方にようやく落ち着いたかと思うと、いきなり急転直下で気の毒。

スペインの田舎から都会に出てきたちょっと知識階級の若い連中はみんなドン・ファンにあこがれ、恋と決闘に明け暮れることを夢見ていたなんて、笑える。そうか。だからみんなあんな感じなんだ、と少々合点がいく。サッカーとか、フランコとか、バスクだカタルーニャだ、その辺が盛り上がる前の段階での旧いスペインのお話だが、彼らの根っこが少しわかったような気がした。

家庭環境や医者として田舎に赴任したところまではピオ・バローハの自伝的要素多数とのこと。が、それ以後はまるで違う、多作なスペイン作家。戦前が中心だけれど、1956年没。

■著者:ピオ・バローハ著, 前田明美訳
■書誌事項:水声社 2009.5.30 331p ISBN4-89176-725-1/ISBN978-4-89176-725-9
■原題:El árbol de la ciencia, Pío Baroja ,1911

2009年9月29日

まぼろしの王都

まぼろしの王都売れたし評価も高いというカタルーニャ文学が翻訳されたら、とりあえず読まなくては。「まぼろしの王都」は18世紀の建築家・アンドレア・ロセッリの「見えないまちの回想記」とそれを翻訳しているバルセロナの画商エミーリ・ロセルの物語がそれぞれ一人称で語られ、交互に出てくる。エブロ河のデルタ地帯にあるサンカルラス・デ・ラ・ラピタという街に過去に建設されたと伝えられる「見えないまち」があるという。エミーリは突然送られてきた回想録を翻訳しながら、幼い頃の記憶をよみがえらせる。スペインのデルタ地方の政治状況、絵のありかを探る話、3人の女性との絡みなど、むしろ現代の方が興味深く、やはり回想録は添え物なように思える。バランスとしては悪くはないが、歴史物が好きな人には若干物足りないかもしれない。

まぁ、要するにカルロス3世がデルタ地帯に作ろうとした都がまぼろしの都になってしまった理由は一人の鈍感な男のせいだという話。チェチーリアがペテルスブルクへ行った後から何故宮廷やサロンを飛び回るようになったのか、このロセッリという鈍い男はよくわかってない。だから現地妻なんか作って、しかもそれをわざわざ知らせている。二人の間が友情だけになったなんて大間抜けにも信じているなんて、本当に馬鹿。夫にもバレたし、もう続けていられないけれど、あなたの夢に力を添えるため、ロビー活動を続けてきたのに、なんてこと、あの絵の意味がわからなかったの?とばかりにチチェーリアは最後に爆発する。そのせいで街の建設は頓挫する。

けれど、一方現代の世界では、回想録をアリアドナの真意を理解し、若い頃の傷を克服して、新しい人生を得ることが出来る。ロセッリの方も夢は破れたが新しい人生を得ることが出来たのも確かだが、エミーリの方が大人だなと思う。ソフィアの策略に乗らなかったりするし。

ともあれ、最後の父親の件は余計な気がする。その後、絵はどうなったのか、アリアドナとの関係は?などの方が知りたかった。

■著者:エミーリ・ロサーレス著,木村裕美訳
■書誌事項:河出書房新社 2009.8.30 338p ISBN4-309-20524-0/ISBN978-4-309-20524-3
■原題:La Ciutat Invisible, Emili Rosales, 2005

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