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2002年4月20日

ミリオンダラー・ホテル

ミリオン・ダラーホテル■122分 独・米 2001/4/28
■スタッフ
監督:ヴィム・ヴェンダース Wim Wenders
製作:ディーバック・ネイヤー Deepak Nayar/ボノ Bono/ニコラス・クライン Nicholas Klein/ブルース・デイヴィ Bruce Davey/ヴィム・ヴェンダース Wim Wenders
製作総指揮:ウルリッヒ・フェルスベルク Ulrich Felsberg
原案:ボノ Bono
脚本:ニコラス・クライン Nicholas Klein
撮影:フェドン・パパマイケル Phedon Papamichael
音楽:ボノ Bono/ジョン・ハッセル Jon Hassell/ダニエル・ラノワ Daniel Lanois/ブライアン・イーノ Brian Eno
出演:ジェレミー・デイヴィス Jeremy Davies/ミラ・ジョヴォヴィッチ Mila Jovovich/メル・ギブソン Mel Gibson/ジミー・スミッツ Jimmy Smits/ピーター・ストーメア Peter Stormare/アマンダ・プラマー Amand Plummer/グロリア・スチュアート Gloria Stuart/バッド・コート Bud Cort
■感想
ミステリー仕立ての美しいラブ・ストーリー。ロサンゼルスのダウンタウンに立つ古びたホテル。そこには奇妙な人々が社会から隔絶されたかのようにひっそりと暮らしていた。ところが、トムトムの親友イジーが屋根から飛び降りるという事件が起きた。FBIの捜査官がやってきて捜査を開始する。イジーがメディア王の息子だったことから、住人たちはイジーの同室だったジェロニモのタールで描いた絵をイジーの絵として売ろうとする。
一方、トムトムはエロイーズに恋をして追いかけ始める。はじめは逃げていたエロイーズだったが、次第にトムトムの純粋さに心を開き始めるが…

2000年に公開されたヴェンダース最新作。U2のボノの製作・原案。U2が好き、というあたりに比較的ロックの王道を好むヴェンダースらしさが見える。
オープニング・シーンが非常に美しい。これだけでU2のプロモビデオのようだ。「Million Doller Hotel」の看板のある屋上を走る若者。意志をもってジャンプするように飛び降りる。落ちていく。一つ一つの部屋がはっきり見える。墜落する。そしてエンディングに近い頃、再度このシーンは出てくる。
ヴェンダースはいつも同じような俳優、同じようなスタッフで「ヴェンダース一家」を作って撮影するが、今回他の映画である程度知名度のある各国の俳優を集め、スタッフも丸ごと一新した。20作品目にあたるこの作品で何か一つ転機としようという意志がよく見える。
一新されたスタッフ陣の中でも驚いたのが撮影のフェドン・パパマイケルの若さと編集がデジタルになったことだ。インタビューで「寂しい」とつぶやいていたが、それが時代の流れを無視することができない監督らしい変身ぶりだ。
これまでと最大に違うのが登場人物の多さ。ここまで多いのは初めてじゃないだろうか?単なる人数、という意味ではなく、意味をもつ人物の人数のことである。それがはっきりと意味をもって個性的に描けたのが、この映画の底を支えている気がする。彼らがこれだけしっかり存在感を示さずに、ジェレミー・デイヴィス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、メル・ギブソンの3人だけで話が展開していったら、アンバランスな感じがしただろう。
また、ほとんどホテルという一つの空間だけで物語が進行するのも目新しい。
キャストについては、ミラ・ジョヴォヴィッチは魅力的だが、私にとってやっぱりこの顔はリュック・ベッソンの顔に見えてしまう。トムトムとの二人の絡みがあまりにpureで、やはりフランスの小さな映画に見えてしまう。そういうメガネ抜きに見たら、この曖昧な雰囲気は好感をもてたのだろうか?
喜劇を描きたい、という気持ちは歓迎すべきことだと思う。ただ、喜劇とも悲喜劇とも思えなかった。周辺の人物は面白いのだけれど、核になる3人は一つも笑えない。監督はどんなものを撮っても、美しい映像を描き、美しい物語を描く抒情詩人であることは忘れないで欲しい。
ヴェンダースはいろいろとチャレンジしてこれまでの自分と違う作品を出してくれるのだろう。もう一度好きだった頃のヴェンダースに戻って欲しいとは思わないが、もう一度嫌いだった頃のヴェンダースには戻らないだろうということが決意表明されているような、そんな気がする。