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2002年4月 8日

夜明け前のセレスティーノ

夜明け前のセレスティーノ■著者:レイナルド・アレナス著,安藤哲行訳
■書誌事項:国書刊行会 2002.3.25 2400円 ISBN4-336-04030-3(文学の冒険シリーズ)
■感想
「ユリイカ」9月号で予告があり、楽しみにしていた「夜になる前に」のアレナスの処女作。そういえばタイトルが似ている。国書刊行会の文学の冒険シリーズの一冊として刊行された。
ここで「夜明け前」というのはいろいろな意味があると思われるが、文明前の自然のカオス状態のことを指すのか、あるいは大人になる前の子供の幻想と現実の区別の付かない状態を指すのか。
原文が非常にリズミカルに出来ていて、それを訳者が非常に気を使って訳しているのがわかる。日本語で読んでも、とてもリズミカルで、内容が幻想的で現実との区別がついておらず、筋を追う、というタイプの物語ではないにもかかわらず、集中して一気に読めた。
死者と生者の区別がつかず、魔法使いや妖精の世界と自分の周囲にいる大人たちとが混在している。語り手とセレスティーノも最初は違う出生をもっているかのように読みとれてしまうが、次第にその違いはわからなくなる。
自伝的と言うにはあまりに幻想的な、貧しいキューバの田舎の村で土を食べていた子供の世界。母親が結婚直後に夫に去られ、実家に帰ってあまり恵まれた生活をしていなかったことや、大勢の叔母がいたことは自伝「夜になる前に」で語られているが、元々支離滅裂な子供の想像の世界をここまで表現豊かに語られてしまっては、驚くばかりだ。これがキューバで高い評価を受け、その後逆にこの作品が反体制のレッテルを貼られる第一歩となった、その両方の事実は理解できる。
いわゆる「幻想文学」の格調高さ(私はどうも幻想文学に対してそういうものと思いこんでいる節がある)は見られないが、混乱と猥雑さな中にも見る価値のあるたくさんの言葉にあふれる作品。早く「ふたたび、海」などの作品の翻訳が出ないかと期待は更に高まった。