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2008年2月16日

優男たち―アレナス、ロルカ、プイグ、そして私

優男たち―アレナス、ロルカ、プイグ、そして私文学者の評伝であり、作家の自伝であり、文学評論でもある、非常に面白い本で、一気に読んでしまった。

プイグもアレナスも邦訳は全部読んでいる大好きな作家だ。アレナスは自伝が出ていてそれが映画になっているくらいなのでその人となりも知られているが、プイグの方はあまり知らなかった。「リタ・ヘイワースの背信」のトートーや「蜘蛛女」のモーリーナがプイグ自身の反映であることは知っていたが、あのウィリアム・ハートの仕草がプイグ自身のものだったとは…。プイグって本当の「オカマ」だったんだなぁと。本書での訳もプイグの話し方は、完全に「オネエ」言葉だし。

でもアレナスはオカマっぽい感じはしないのだけど、マッチョ系の「ゲイ」のようなイメージだった。なんというか、ラテンのゲイっぽい田舎くささが抜けない人だなと思っていたら、本書でも記載されていたので、少し笑えた。ニューヨークのゲイは日本のゲイと同様「短髪・ダテメガネ・ピチピチTシャツ」がお約束なのかな?

「優男」は「優しい男」と「優れた男」のダブルミーニングだそうで、原題は「オカマ偉人伝」なんだそうな。芸術家にゲイが多いことを当然のように受け止めている私からすると、彼らの苦悩は意外にすら思えるが、考えてみたら、ガルシア・ロルカはファシズムの時代だから当然としても、アルゼンチンの1970年代の軍事政権やキューバのカストロ政権の弾圧なんてまったくもって前近代的だから、ゲイが容認されない世界なんだなぁと。3人ともニューヨークで己の本性を開花させることが出来たところが、さすがはニューヨークというべきだろう。

それにしてもプイグもアレナスももう亡くなってるんだな…と、今更ながらだが、残念に思う。というのも、バルガス=リョサやガルシア=マルケスが未だ精力的に本を書いているからなのだが。プイグの方は本書でも明確にはなっていないし、公には言われていないが、やはりAIDSの可能性を捨てきれない。アレナスはもちろんAIDSのせいだ。AIDSが心底憎い。

最初と最後にハイメ・マンリケ自身の自伝が書いてあったが、特に青年期までの自伝はラテンアメリカ作家のある意味土くさい感じがすごく好みだった。小説の方の翻訳が出ないかと期待している。

それにしても、どうして刊行から1年以上経過してからこういう本があることに気づいたのか。たまたま「プイグ」で検索したら出てきたのだけど、どうしてその前に気づかなかったのかとつくづく思う。

■著者:ハイメ・マンリケ著,太田晋訳
■書誌事項:青土社 2006.12.25 285p ISBN4-7917-6316-5/ISBN978-4-7917-6316-0
■原題:Eminent Maricones : Arenas, Lorca, Puig, and Me by Jaime Manrique, 1999
■目次
1 脚―幼年期と思春期の回想
2 マヌエル・プイグ―ディーバとしての作家
3 レイナルド・アレナス最後の日々―海のごとく深い悲しみ
4 フェデリコ・ガルシア・ロルカと内面化されたホモフォビア
5 もうひとりのハイメ・マンリケ―死せる魂
6 最近