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2005年7月21日

ナショナル・ストーリー・プロジェクト

ナショナル・ストーリー・プロジェクト■原綴:National Story Project
■著者:ポール・オースター編, 柴田元幸訳
■書誌事項:新潮社 2005.6.29 ISBN4-10-521709-7

■感想
ポール・オースターが著書「トゥルー・ストーリーズ」で語っていた、あの物語だとすぐに思い出した。ラジオ番組で全米から募集したお話をオースターが選出し、放送する。条件は本当にあったお話であること、そして短い話であること。ここに収録されているのは、ラジオで放送されたものの中から更に厳選されたもので180収録されている。オースターの「偶然」好きが産んだ副産物だろう。集まったのは、テレビでいうところのアン・ビリーバボーみたいな話ばかりでなく、おかしな話ばかりでもなく、様々な年齢、職業の人が様々な時代を背景に語ったお話だった。

印象に残ったのは、やはりクリスマス・ツリーを引きずってブルックリンを歩く11歳の女の子、の図だったりするのだが。他にもO.ヘンリーの原稿のO.ヘンリーっぽい物語とか、「キルトを洗うこと」とか、消しゴムみたいなトルテリーニの話とか、街中を停電させた話とか、たくさんある。哀しいお話もあるし、戦争の話もあるし、内容は本当にいろいろだが、ふーん。アメリカ人のこういう職業の人はこういう生活をしていたのだな、というところにも興味がもてる。だからこそ「ナショナル・ストーリー」というネーミングになったんだなということがよくわかる。

いろいろとお話が分類されているのだが、偶然は「死」と「夢」のあたりに密接な関係があるようだ。つまり人が死んだその時間に夢に出てきたというようなお話がいくつかあった。日本人は幽霊に親しんでいるというか、仏教文化のせいだろうか、霊的なものに対してあまり頑なではないような気がする。お盆にご先祖様が帰って来る国だからか、古来より木や物に「言霊」というか、それぞれの精霊が住み着いていると信じられている国だからか。私自身、幽霊については別に特別に信じるとか信じないとか、あまり考えたことはない。考える前に、それはそこにあったというか…科学で解明できるものとできないものが世の中にはあるんだ、と漠然と思っているというか…。そんな日本人としては、うーん別に普通じゃん?というような話をアメリカ人は一生懸命誤解のないように語っていたりするあたりに、ちょっと文化の差を感じたりもした。

総じてとても面白く、なかなか本を閉じることが出来ない本で、実際はかなり一気に読んだような気もするが、それなりには時間がかかったと思う。読み応えありです。