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2004年6月22日

フリアとシナリオライター

フリアとシナリオライター■原題:La t´ia Julia y el escribidor, 1977
■著者:マリオ・バルガス=リョサ著,野谷文昭訳
■書誌事項:国書刊行会 2004.5.31 ISBN4-336-03598-9
■感想
国書刊行会「文学の冒険シリーズ」第一期の目録に掲載されたのが、約15年前だそうだ。私がリョサの「緑の家」を読んだのがもう10年くらい前になるのかなぁ。その頃から「まだ出ないのかなぁ」と思っていた。この度ようやく翻訳が出た。

15年前というと1990年頃。やはり映画「ラジオタウンで恋をして」が製作されたからでしょう。すぐに出せれば良かったんでしょうけど、タイミング逸してずるずると…って感じかな?そんな簡単に翻訳できるような量じゃなかった。ちなみに、先に映画を見てしまったので、マリオくんはキアヌ・リーブスの顔で刷り込まれてしまった。

バルガス=リョサが若い頃ペルーのラジオ局に勤めていたこと、親戚で年上の女性と結婚したことは事実らしいが、それ以外は基本的にフィクションと思われる。シナリオライターであるペドロ・カマーチョなる人物が想像の人物かどうかはともかく、リョサのある意味分身だろうという後書の説には納得。元々作者は自伝的要素をベースにリアリズムあふれる作品を書くタイプ。初期はばりばりのシリアスだったのに、この頃は「パンタレオン大尉と女たち」なんかも書いていて、スラップスティックコメディがお得意だった時期。実際面白い。何が面白いって、シナリオの方。

本作は「マリオ(自分)とフリアおばさんの恋愛物語」「ペドロ・カマーチョの書いたラジオドラマのスクリプト」が概ね交互に来るという構成になっている。全部で20章なのだが、9章はスクリプトにあてられている。壮大なメロドラマで、読む者をわくわくさせておきながら、常に「こうご期待」で終わるそのシナリオはどうなるのか?

ちなみに、映画の方ではそのいくつかだけをピックアップし、最後にちゃんと落ちをつけている。また、映画ではアルゼンチン人がアルバニア人になっている。映画の鑑賞人口を考えると当然の配慮か。

マリオの「同国人の人と結婚したいと思っているのだが…」の返事にカマーチョが実はボリビア人ではないことが伺われる。オチはちょっと悲しいな。