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2002年10月22日

サッカーの敵

サッカーの敵■著者:サイモン・クーパー著,柳下毅一郎訳
■書誌事項:白水社 2001.3.10 ISBN4-560-04960-2
■感想
昨年3月に日本で刊行されたが、原文は1994年のアメリカワールドカップ後に出た本である。著者、サイモン・クーパーは現在では世界No.1フットボール・ジャーナリストと呼ばれるライターだが、当時23歳だか24歳だかの本当に若いジャーナリストだった。1994年に刊行されたときは、さぞ衝撃的だっただろう。
世界とフットボールのかかわりを主に政治的・社会的観点から書かれている…というと、つまらなさそうに思える。それは何度も繰り返されて来たテーマであるし、プレイヤーの話や戦術の話の方が面白そうに思えるからだ。だが、これは面白い。翻訳も良いのだろうが、前のガーディアンの記者が書いたものより遙かに引き込まれる。
ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ大陸(当時はアジアは抜けていても当然)と世界中を走り回り、多くの人にインタビューをし、過去のその国でのサッカーについて描かれている。臨場感もありながら、ポイントを押さえて歴史もしっかり押さえている。私はアルゼンチンサッカーについてはとりあえず、日本で仕入れることの出来る歴史については何でもござれなので、目新しい話はなかったが、その分この著書の価値がよくわかった。他の国の話もそうなのだろう。
もっと早く読めば良かった、とは特に思わない。2001年3月に読んでも2002年10月に読んでも、時間には大きく左右されるような内容ではない。サッカーの戦術、プレイヤーの話などは雑誌で刻々と最新情報を仕入れるべきであって、書籍ではもっと社会・文化・政治との密接な関わりについて読みたいと思う。
本書の中で一番面白かったのは、やはりアフリカの話だ。カメルーンの給料未払いによるストの話は日本でも今回のW杯直前に知られたが、その理由がよくわかる。政治的に不安定な国ほどサッカーに情熱をもっている、という主張は説得力がある。
2002年W杯を本当にきちんととらえた本は来年にならないと出ないだろうと思う。現在続々刊行されているのは、ルポルタージュであって、総括ではない。私には読みたいと思えるものはまだ出ていない。「あのW杯は試合内容からすると、準決勝・決勝くらいがまぁなんとかで、残るはひどい内容ばかり。史上最悪のW杯だった」と言われても当然だろうな、と思っている。