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2002年8月25日

第四の手/ジョン・アーヴィング

The Fourth Hand, 2001

第四の手 上第四の手 下
小川高義訳 新潮文庫 2009.11.28
上:500円 ISBN978-4-10-227315-9下:540円 ISBN978-4-10-227316-6

TVジャーナリスト、パトリックは、インドでサーカスの取材中、ライオンに左手を食いちぎられる。幸い、事故死した男の手が移植されることになるが、手術を目前に「手」の未亡人に子作りを迫られ、やがて男の子が誕生する......。稀代の女ったらしが真実の愛に目覚めるまでのいただけない行状をつぶさに描く、抱腹の純愛長篇。


アーヴィング、第10作目の長篇。日本の翻訳としては「158ポンドの結婚」以来の1巻本だ。ずっと長篇=2巻本だったので、本来は充分に長篇の長さだが、今回はアーヴィングとしては「中篇」になるのかもしれない。
学生時代までは存在感希薄だったハンサムが、次第に女性にもてるようになり、ついには「来る者拒まず」になって、軽薄きわまりない男になってしまう。妻には「大人になりきれない、子供のままの男」とあきれられ、次から次へと性懲りもなく女をたらし込む。それが仕事中ライオンに左手を食われてしまう。事故死した男の手を移植されるが、その未亡人に初めて本気で惚れてしまって、さて、どうしよう。というお話。
一種のラブコメものにしたかったのだろうが、あまり成功しているとは感じられなかった。主人公を「笑う」気になれないのは、「女の尻を追いかける」タイプの男ではないせいかな?とも思う。あくまで受け身のぼんやりとした主人公に感情移入が難しいためと思われる。
それより「災害チャンネル」という世界中の小さなしょうもない災害や事故を追いかけ回しているニュース番組の低俗さ、そこから抜け出そうとしながら、なかなか抜け出せない主人公の方に共感を覚えることができる。
また、ドリスという女性がニューヨーカーのカッコいいキャリアウーマンと対照的に官能的で、意志が強く、非常に好ましく描かれているために、ずいぶんと落ち着いた作品に仕上がっているような気がする。
アメフトになんか一つも興味のないアメリカ人もいるのだなぁと思いつつ、ニューヨーカーはそんなものか、とも思う。ともあれ、知らない男を一族に向かい入れる儀式として、競技場を選んだあたりが、どういうわけか興味深く感じた。アメフトじゃなくて、サッカーだったら、と思うからかもしれない。

第四の手小川高義訳 新潮社 2002.7.25 ISBN4-10-519110-1 2,200円