最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2009年6月

2009年6月30日

Passion 8 /paris match

Passion 8このアルバムは少し"不思議な印象"です。「ヨコハマ・シティ」や「Happy Happy Wedding」のような言ってはなんですがかわいらしい曲と「タイムシェイド」「FREE」のような危うい詞が同居しているのが妙な感じです。

「Flight 7」のときよりは歌詞ミズノマリ率は多少下がってはいますが、あまり関係ないですね。「公園へ行こうよ」が「Flight 7」の「Bikerhide」によく似てるなぁと思ったら、「雨上がり」で始まるところまで同じだった。ミズノさん...もう少しパターンを増やしては。

一番印象に残ったのが「タイムシェイド」でした。

剥き出しの夢 風に磨り減る時代(ころ)
人に云えない遊戯(あそび)ばかりしてた ふたりだった
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名前は教えるけど翌朝になれば忘れてね
踊り場ですぐ抱いて 明日には忘れてね
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暗闇だけの歓楽街(まち) こんな女が
ただ薬指にしてる指輪なんて
気にしないで

すごいなぁと私なんかはすぐ思ってしまいます。「FREE」の"カラダじゅうピアス"も最初ギョっとしますが。

音としてはボサノバ、ジャズ、打ち込み系といろいろバラエティです。歌の表現力もあがってるし、言うことはないんですが、あまりメジャーにはもう向こうとしていないのか、それともちゃんと結婚式でかかる曲を入れてるあたり、もっと売れようと思っているのか、今ひとつわからないのが、最初に感じた"不思議な感じ"の原因の一つなのでしょう。

01.Passion8 Groove(作詞:ミズノマリ/作曲:杉山洋介)
02.プラネタリウム・シンドローム(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
03.ヨコハマ・シティ(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
04.HAPPY HAPPY WEDDING(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
05.公園へ行こうよ(作詞:ミズノマリ/作曲:杉山洋介)
06.タイムシェイド(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
07.FREE(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
08.空っぽの君と僕(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
09.そう きっと(作詞:ミズノマリ/作曲:杉山洋介)
10.サマー・オブ・エレクトリック・シティ(作詞:古澤大/作曲:杉山洋介)
11.本当は言いたくないけれど(作詞:ミズノマリ/作曲:杉山洋介)
12.寝ても醒めてもあなただけなのに(作詞:ミズノマリ/作曲:杉山洋介)

2009年6月29日

いずれは死ぬ身

いずれは死ぬ身初訳はないが、『エスクァイア』をマメに読んでいたわけではないので、知らない作品ばかり。スチュアート・ダイベックとポール・オースターが入っていれば、買うでしょ、そりゃ。

「ペーパー・ランタン」スチュアート・ダイベック
高速道路では危ないよ…。いや、これを楽しみにしていたのだけれど、やっぱりシカゴから離れるとピンとこなくなるのかなぁ。中華料理店の様子は面白かったんだけど。

「ジャンキーのクリスマス」ウィリアム・バロウズ
ジャンキーの人情話。過去に読んだバロウズと同じノリで読み進めていったら、あまりに違う結末なので、驚いた。というか、笑った。

「青いケシ」 ジェーン・ガーダム
「すすり泣く子供」を「紙の空から」で読んだ。マザコン女性のお話ね。なるほど、同じような話だわ。

「冬のはじまる日」ブリース・D'J・パンケーク
これは好み。荒涼たる冬に閉じこめられた人々の生活。わびしく、苦しい話だけれど、どこかたくましい。舞台はウェスト・バージニアらしいが、アメリカ北部の田舎っぽいにおいがする。作者はもう亡くなっているのが残念。でも「三葉虫」の方も読んでみよう。

「スリ」 トム・ジョーンズ
「そんな歌手いなかったっけ?」の方なので自分は年配なのか…。面白い。オートミール朝昼晩と食べれば糖尿病が良くなるのか…。ダイエットにもいいのかしら。

「イモ掘りの日々」ケン・スミス
すみません。パス。

「盗んだ子供」クレア・ボイラン
ブラック過ぎて笑えない…。まぁ、確かに親になる資格のない母親はごまんといるだろうけれど。

「みんなの友だちグレーゴル・ブラウン」シコーリャック
「変身」スヌーピー版。

「いずれは死ぬ身」トバイアス・ウルフ
トバイアス・ウルフは邦訳も多く出ているし、現代アメリカ作家の中で評価の高い一人だけれど、だからと言って、あまり読む気にはならない。

「遠い過去」ウィリアム・トレヴァー
このアンソロジーの中では最も著名な作家の一人。アイルランドはあれだけ過激にテロしていれば、全体が急進的な反英なのかと思っていた。過去はそうでもなかったのか。しかし、ちゃんと馴れ合えているところが、じんわりとよかったのに。

「強盗に遭った」エレン・カリー
もうちょっといろいろ危機感を持った方が良いのでは?

「ブラックアウツ」ポール・オースター
オースター初期の戯曲。「幽霊たち」の原型で、ブラックとブルーが登場。フランス不条理劇の臭いがプンプンする。これのためだけでも新刊で買ったかいがあった。

「同郷人会」メルヴィン・ジュールズ・ビュキート
「墓の上で踊る」というと、この「おれの墓で踊れ」という本をどうしても思い出してしまう。

「Cheap Novelties」ベン・カッチャー
アメコミ…どうしても慣れないなぁ

「自転車スワッピング」アルフ・マクロフラン
男の子はどうしてこうバカなんでしょう。

「準備、ほぼ完了」リック・バス
終盤、突然視点が変わるので、ふいをつかれた。

「フリン家の未来」アンドルー・ショーン・グリア
最初「アマルフィ」っていうからイタリアの話かと思ったら、お店の名前なんだ。まぁ、だからといって何?という感想なのだけれど。


■著者:柴田元幸編訳
■書誌事項:河出書房新社 2009.6.20 293p ISBN4-309-20521-6/ISBN978-4-309-20521-2
■原題・初出:
Paper Lantern : Dybek Stuart(初出『エスクァイア日本版』1997年12月号)
The Junly's Christmas : William Burroughs(初出『エスクァイア日本版』1997年1月号)
Blue Poppies : Jane Gardam(初出『新潮』1998年7月号)
First Day of Winter : Breece D'J Pancake(初出『エスクァイア日本版』1996年11月号)
Pickpocket : Thom Jones(初出『エスクァイア日本版』1996年11月号)
Casual Labour : Ken Smith(初出『エスクァイア日本版』1997年3月号)
The Stolen Child : Clare Boylan(初出『エスクァイア日本版』1997年9月号)
Good ol' Gregor Brown : Sikoryak(初出『鳩よ!』2001年8月号)
Mortals : Tobias Wolff(初出『小説現代』2004年3月号)
The Distant Past : William Trevor(初出『エスクァイア日本版』1996年8月号)
Robbed : Ellen Currie(初出『エスクァイア日本版』1997年2月号)
Blackouts : Paul Auster(初出『エスクァイア日本版』1996年10月号)
Landsmanshaft : Mervin Jules Bukiert(初出『新潮』1998年7月号)
Cheap Novelties : Ben Katcher (訳し下ろし)
Swopping Bikes : Alf Mac Lochlainn(初出『新潮』1998年7月号)
Ready, Almost Ready : Rick Bass(初出『すばる』1989年5月号)
The Future of the Flynns : Andrew Sean Greer(初出『エスクァイア日本版』1998年1月号)

2009年6月22日

通話/ロベルト・ボラーニョ

ロベルト・ボラーニョ 通話少し読み進めただけで、親しみの持てる作家だとわかる。率直でまわりくどいところがない。スピーディで「だからどうした」的な結末がない。チリの作家、故・ロベルト・ボラーニョの短編集。「通話」「刑事たち」「アン・ムーアの人生」の三部構成で、その中に独立した4~5篇の短編が収められている。

「通話」は表題作を除き作家に関する短篇を集めたもの。「センシニ」は多分、私の感覚ではサッカー選手の「(ネストル・)センシーニ」なんだけれど、アルゼンチンの作家ダニエル・モヤーノがモデルの一人と言われている。そこそこ有名だがアルゼンチン軍事政権下を逃れスペインに亡命、糊口を凌いでいる某作家と主人公が「文学賞で賞金をもらおう」と情報を交換しあうお話。しぶとく、しぶとく、物を書き続ける。

「アンリ・シモン・ルブランス」は時代を遡り、第二次大戦直前からのフランスで活動していた、これも「ぱっとしない」作家の話。文学的にはまったくぱっとしないが、何故かレジスタンス活動で活躍するも、やはり「ぱっとしない」という冴えないお話。

「エンリケ・マルティン」(立ち読み)はまったく才能のない文士で、すぐに詩作を諦めてしまった、かのように見える。この名はおそらくエンリケという名前を借りたのだろう。エンリケ・ビラ=マタスに捧げられている。本書の中のエンリケは全然才能のない三文作家だが、ビラ=マタスは違う。この自伝的なように見せかけた一人称のフィクションで、作家や文学をテーマにしている、という点では「バートルビー...」に共通点があるかもしれない。

「文学の冒険」は嫉妬心から一流作家に対して自作の中でちょっといたずらしたが故に、自ら罠にはまってしまったかのような、これもまた情けない作家の話。

最後の「通話」だけ色合いが違うが、この固まりはどれもこれも「しぶとく書き続ける、ぱっとしない作家」の物語。一連のこの作家たちは、ポラーニョにとって執拗なほど自虐的な自画像なのだろう。だが、不思議とそこに悲壮感はないから、「バカだけど、ずっとやり続けることはえらいな」といった好感がもててしまったりする。現実に近くにこんな奴いたら嫌だけど、こうやって読んでいると、ちょっと悪くない気がしてしまう。

次の「刑事たち」は全体のまとまりとしては「犯罪」とか「歴史の闇」とかいった言葉が共通項かなと思う。「芋虫」の冒頭の一文"ストローハットにバリ煙草をくわえた姿は、まるで白い芋虫だった"は、最初「?」だったが、白いスーツを着ているんだろうなと想像したが、では何故「白いスーツ」が抜けてるのか。自分でも何故「スーツ」だと思ったかというと、やはりそれは「ストローハット」という言葉から連想しているので、それでいいのか、というところに落ち着く。この作品はかなりボラーニョの若い頃の姿が反映されているそうだ。

次の「雪」だが、こちらに立ち読みが。アジェンデ政権崩壊時に父親が共産党幹部だったためロシアに亡命してロシアの闇社会で生き、ボスの女と駆け落ちしてヨーロッパを彷徨い、バルセロナに落ち着いた男の話。最初の「センシニ」もそうだが、ラテンアメリカの現代を語る上で欠かせない「アルゼンチンの軍事政権」「チリのピノチェト政権」という二つの政治事情がさらりと作品に反映されているが、だからといって何か声高に言うようなところはまるでない。ロシア続きの「ロシア語をもう一つ」はスペイン語の「conõ(クソッ)」がドイツ語の「Kunst(芸術)」に聞こたが故に命拾いした兵士の話。だが、この話のどこが「ロシア語をもう一つ」なんだろう。ファランヘ党とか青い旅団とか、スペイン現代史が少し頭に入っていた良かったと思う。「ウィリアム・バーンズ」はそういう名前の作家ががいたが、まるで関係ない話。そして最後の「刑事たち」はチリで弾圧に加わった警官二人の会話。

「アン・ムーアの人生」は女性群像というべきか。「独房の同志」のソフィアはスペイン人の教師で主人公が一時一緒に暮らした女性。「クララ」は主人公がまだ本当に若い頃恋をして、その後も長い間ずっと連絡を取り合っていた女性。「ジョアンナ・シルヴェストリ」はスペインのポルノ女優がアメリカに撮影に行ったときの話を、おそらくはエイズのために入院している病院で語っている。こういう女性の一人称を書く男性作家、しかもラテンアメリカで、というと、ふとマヌエル・プイグを思い起こす。最後の「アン・ムーア...」は1948年生まれ、1960年代後半のヒッピー文化真っ盛りのバークレーで過ごし、その後のアメリカやメキシコ、ヨーロッパなどを転々とし、男を転々とし、仕事も転々とした、そんな一人の女性の人生を40歳くらいのところまでだが描いている物語。アンは確かに繊細なクララとは違うが、タフとも言い難い。かといっていい加減な女性とも思えないのだが、一言でいうと、落ち着こうとは一つも考えてないでしょ?という人生だ。4人の女性はそれぞれ違うタイプで違う人生だが、みんな大変だなという印象。

ボラーニョに関しては、短篇一編しか読んでいないのに、自分のなかですごく期待度が高かった。前評判が良かったことやアメリカで英訳が売れているといったことも、その理由の一つだ。が、最大の理由は私が新しいラテンアメリカの作家に飢えていた、ということだ。いくら好きでも、いつまでもガボやリョサだけではいい加減飽きる。

『エクス・リブリス』シリーズで予定されている、次の「野生の探偵たち」も早く読みたい。

1.通話 Llamadas telefónicas
センシニ Sensini
アンリ・シモン・ルブランス Henri Simon Leprince
エンリケ・マルティン Enrique Martín
文学の冒険 Una aventura literaria
通話 Llamadas telefónicas

刑事たち Detectives
芋虫 El Gusano
雪 La nieve
ロシア語をもう一つ Otro cuento ruso
ウィリアム・バーンズ William Burns
刑事たち Detectives

アン・ムーアの人生 Vida de Anne Moor
独房の同志 Compañeros de celda
クララ Clara
ジョアンナ・シルヴェストリ Joanna Silvestri
アン・ムーアの人生 Vida de Anne Moor

訳者あとがき

■著者:ロベルト・ボラーニョ著,松本健二訳 ■書誌事項:白水社 2009.6.25 290p ISBN4-560-09003-3/ISBN978-4-560-09003-9 ■原題:Llamadas Telefónicas : Roberto Bolaño