2004年4月 : アーカイブ

2004年4月25日

目かくし

目かくし■原題:The Blindfold Siri Hustvedt
■著者:シリ・ハストヴェット著,斉藤英治訳
■書誌事項:白水社 2000.4.10  ISBN4-560-04687-5
■感想
田舎からニューヨークに出てきた女子学生の神経症的なお話だったらイヤだなぁと思って読んだのだけれど、まぁ当たらずとも遠からず。どうしてニューヨーカーはみんな神経を病むかねぇ。それだけ生きるのが大変なんだろうな。

主人公の名前であるアイリス(Iris)はシリ(Siri)のスペルを逆にしているのだから、本人の経験を元にしているのだろうが、しかし当然フィクションである。主人公アイリスの恋と病気と勉強と貧乏をベースにおかしな人たちとの交流が描かれる。

第一章「ミスター・モーニング」:同じアパートで死んだ看護婦の遺品に異常な関心をもつ変人の話。主人公はアルバイトで遺品を描写してテープレコーダーに吹き込むという仕事をする。
第二章:人間より写真が好きなジョージと恋人のスティーブとの話。
第三章「フーディーニ」:入院した病院で同室になったO夫人の話。
第四章:美術評論家パリスと恋人になるローズ教授との話。

第一章と第三章は先に短篇として発表されて、第二章と第四章が加筆されて長篇となっているのだが、第四章がもっとも長く、全体を包み込んでいる構造。時間的に前後しているし、第一章から第三章のつながりが希薄なため、第四章で流れをまとめて理解できる。なかなかおもしろい。

以前多く読んだことがあるが、1980年以降のアメリカの現代小説は基本的にみんな神経症的でミニマリズムで、私のような前時代的な「物語」を好む読者にとっては"So What?"な作品が多い。だから1970年代までの作品か、あるいは例外的な2〜3人の作家しか読まないのである。でも読まず嫌いなのかもしれないなと思って少しはまた読んでみているのだ。

で、わりと面白かった。幻想的で、ちょっと神経質で、でもちゃんと物語があるのだ。一種の教養小説に近い。新しく見えて、意外に古い形にベースをもっていっている。なるほどなぁと。

夫のポール・オースターに本書は捧げられている。オースターは再婚らしいが、彼女はおそらく初婚で26歳のときに結婚している。ニューヨーカーの作家どうしの結婚で23年ももっている、というのは珍しいことではないだろうか。

2004年4月23日

日の名残り

日の名残り■The Remains of the Day 134min イギリス 1994.3
■スタッフ
監督:ジェームズ・アイヴォリー
製作:マイク・ニコルズ/イスマイル・マーチャント/ジョン・コーリー
原作:カズオ・イシグロ
脚本:ルース・プラワー・ジャブヴァーラ
撮影:トニー・ピアース=ロバーツ
音楽:リチャード・ロビンズ
出演:アンソニー・ホプキンス,エマ・トンプソン,ジェームズ・フォックス,クリストファー・リーヴ,ピーター・ヴォーン,ヒュー・グラントほか
■感想
ジェイムズ・アイボリー監督作品は、私にとっては「秀作を作る監督」というイメージが強い。まぁまぁきれいで悪くはないけれど、どうしても全作品をおいかけたいというほど魅力的でもない。原作本のある映画は先に原作を読んでしまうと絶対に映画がつまらなく見えるので、先に映画を見ておこうと思っただけのことである。

「ハワーズ・エンド」の主役二人(アンソニー・ホプキンス&エマ・トンプソン)がそのままの組み合わせで登場。テーマなんかは非常に共感できるところがあって、サラリーマンとかやったことあると、その都度精一杯働いているつもりでも、本当にそれが会社のためなのかどうか、世の中のためなのかどうかと思う場面に出くわしてしまうことは、誰にでもあるわけで。

1930年代の英国/貴族の没落/戦争の危機といった背景をもった使用人もの、という共通点はあったものの、「ゴスフォード・パーク」とはまるで違う文芸作品である。そんなことはカズオ・イシグロ原作なんだから、あたりまえか。

アンソニー・ホプキンスの有能さはわかったけれど、エマ・トンプソンの有能さはどこにあるんだろう?確かにメイドをうまく育てたみたいだけど、具体的に彼女が動いたところというのは、アンソニー・ホプキンスの父の副執事のミスを見つけるくらいなものであった。これが一番不満点なんだな。具体的にきびきびと働くエマ・トンプソンを遠くから眺めるくらいのシーンはあってもしかるべきかなと。

ロバート・アルトマンがさすがなのかな、とも思うのだが、ジェイムズ・アイボリーはこれはお得意のジャンルで、製作も脚本もいつものメンツなのだから、もっと貴族の生活のディティールにこだわって欲しかった気がする。その点ではロバート・アルトマンの方が全然知らなかったわりには上だった。E.M.フォースター原作のものだとストレートに貴族を描けるので、そうじゃないとダメなのかなぁ‥。

まぁ、結論としてアンソニー・ホプキンスの執事の人生は本心を明かさないことによって幸せな家庭を築くという機会を逸してしまった後悔と、新しい雇い主にも評価してもらえたわけなので仕事に対する自負と。誰にでも後悔はあるし、自信のあることもあるしね。

2004年4月16日

ゴスフォード・パーク

ゴスフォード・パーク■137分 アメリカ 2002.10公開
■スタッフ
監督・製作・原案:ロバート・アルトマン
製作・原案:ボブ・バラバン
製作:デヴィッド・レヴィ
脚本:ジュリアン・フェロウズ
撮影:アンドリュー・ダン
音楽:パトリック・ドイル
出演:マギー・スミス,マイケル・ガンボン,クリスティン・スコット=トーマス,ボブ・バラバン,ヘレン・ミレンほか
■感想
2002年の公開当時に気になっていたのだが、見損ねていたらWOWOWでやっていて、予想以上に気に入ったのでDVDを買う。これは1930年代のイギリスで貴族のハウス・パーティを描いた作品。

ゴスフォード・パークと名付けられた別荘に招待され、鷹狩りに集まった貴族たち。その中で殺人事件が起きる‥という設定だけはまるでアガサ・クリスティ。貴族の俗物丸出しの姿と従僕たちの姿を交錯させながら映像化している。丸2日ほどの密室劇なのだが、群衆劇でもある。だから登場人物が多い。ロバート・アルトマンは元々好きな監督なのだが、いつも登場人物が多い。外国人の顔と名前をすぐに覚えられないという人には絶対勧められない映画である。あと、推理ものとして観たらあまりおもしろくはない。

しかし私にはとてもおもしろかった。公開当時観ればよかったと思う。こういうディティールの積み重ね映画が大好きなんである。召使いたちの慣習(主人の名前で呼ばれること)や銀食器を磨く姿、靴を磨く姿。貴族たちの服装やカントリーハウスの家具調度品。毎日ドレスを変えることがかえって下品だと言われてしまったりする風習等々。

がっちり構造化されている階級社会。その中を自由に行き来しようとして、思いっきり浮いているアメリカ人の姿が滑稽だったりする。召使いたちが全員うっとりと人気俳優の歌を聞いている姿がよかったなぁ。対照的な「(我々は当然)映画なぞ観ない」という伯爵夫人が逆に間抜けに見える。

その伯爵夫人は気位は高いがお金がない。これをマギー・スミスが演じていて、彼女が出てくるだけで、映画が締まる気がする。新人女優らしいけど、メアリー役の女優さんもよかった。最初は雨で、伯爵夫人に言われるがまま雨の中、車を止めてお茶の入った水筒の蓋を開けていた彼女だったが、ラストは快晴で、気弱な伯爵夫人に「それで何の益が?」と言い返す姿を見て、この映画は彼女の成長物語でもあったのだと。没落していく貴族階級の姿でもあり、もう二度と開催されない鷹狩りの舞台であるカントリー・ハウスの最後の姿なんだなと思った。

2004年4月15日

ナイン・インタビューズ―柴田元幸と9人の作家たち

ナイン・インタビューズ■著者:柴田元幸
■書誌事項:アルク 2004.3.30 ISBN4-75740781-5
■感想
英文学者・柴田元幸氏が自分の翻訳した作家たちをアメリカ各地に訪ね歩いてまとめたインタビュー集。収録されているのは、シリ・ハストベット、アート・スピーゲルマン、T.R.ピアソン、スチュアート・ダイベック、リチャード・パワーズ、レベッカ・ブラウン、カズオ・イシグロ、ポール・オースター、村上春樹の9人である。いずれも蒼々たるメンバーである。村上春樹はアメリカ人ではないが、短篇がよくアメリカの文芸誌に掲載されるので、ここに含まれている。

私の目的はポール・オースターなのだが、他に興味をもったのは、シリ・ハストベットとアート・スピーゲルマン。シリはオースターの奥さんだが、作風が似ているかどうかも知らないので、一応読んでみようかなという気はする。シリ・ハストベットの「目かくし」アート・スピーゲルマンの「シカゴ育ち」、あと、カズオ・イシグロの原作はともかく、下記で見た映画のせいもあり、「日の名残り」を観ようかと。元々あまりアメリカ文学は好きじゃないんです(カズオ・イシグロはイギリス文学なのですが)。カート・ヴォネガットJr.とかね。

しかし、柴田氏にはこんなことやってる暇があったら、Timbuktu(1999), The Book of Illusions(2002), Oracle Night(2003)を翻訳して欲しいなぁ。って、たぶんやってるんでしょうけど、進んでないんだろうなぁ。

2004年4月12日

RESET―カンバラクニエ作品集

RESET―カンバラクニエ作品集■著者:カンバラクニエ
■書誌事項:リトル・モア 2004.3.18 ISBN4-89815-112-4
■感想
やっとこの人の作品集が出た。ずっと前、ポストカードあさりしてたんだけど、だいたい集まったのでやめた。orange pekoeの1st アルバムまでのシングル含めすべてを担当。本人も関係しているセシルというバンドのジャケットやWill、コンタクトレンズのCM等にも使われている。

なんで好きなのか、よくわからないが、線が太くてカラフルのわりに清楚だから??絵はよくわからない‥語れない‥。でも特定のアーティストのイラスト集を買ったのなんて初めて。とても気に入っている。

2004年4月 9日

やっぱり猫が好き 新作98

やっぱり猫が好き 新作98■ポニー・キャニオン 2004.4.7
■感想
初回限定BOX付きって何だろう?と思っていたらスペシャル5本を収めることが出来るボックスってことね。つまり、2001を買い直せと(怒)。

こういうことである。新作2001はすでにほぼ5000円も出して買っているのだ。それを通常のCDサイズで出しちゃったもんだから、新たにトールサイズで出し直しているのだ。それを買い直せと、ポニーキャニオンは言うわけだ。多少安いのはそういう訳なのだ。ふーん。はいはい。買い直しましたよ(思うつぼ)。


  1. やっぱり猫が好き 恩田三姉妹の京都大騒動編
  2. やっぱり猫が好き殺人事件
  3. やっぱり猫が好き 新作98
  4. やっぱり猫が好き 新作2001
  5. やっぱり猫が好き 2003

新作98の頃はまだきみちゃんが結婚したばかりだったようです。かやのねえさんもまだ本編の頃の面影が残ります。これが2001になっちゃうと、さすがにきついんだよね。

2004年4月 8日

ビバ!ウルグァイ

ビバ!ウルグァイ■著者:井上忠恕,後藤信男
■書誌事項:STEP 2003.3.25 ISBN4-915834-49-2
■感想
ウルグアイは南米の小国だが、ワールドカップで2度優勝したことのある古豪である。現在でもアルバロ・レコパ、ダリオ・シウバほか多数の選手がセリエAやリーガ・エスパニョーラで活躍している。しかし人口300万人程度の小国のため、あまり日本でも知られていない。ウルグアイ専門の本があるのを見つけて購入したが、サッカーについてはほとんどふれられてないも同然。あまり期待もしていなかったが‥。

ウルグアイのサッカーと言えば、第1回ワールドカップを第一次大戦後の経済力で誘致し、その大会で優勝したのだが、それより大事なのはブラジル大会での優勝であろう。ブラジルの大会でブラジルが優勝できずウルグアイが優勝しているのだ。これが「マラカナンの悲劇」である。それが歴史的事項としてふれられているだけなのに、このサブタイトルはなんだ?

JAICAの人が書いたものだから、エッセイや旅行記というよりは、農業とか生体系などがメインで、若干教条主義的なところがあっても仕方がない。そういう人しか日本とは縁のない国なのだから。しかしそれでもウルグ「ァ」イやアルゼン「ティ」ンという書き方はどうしてなのだろう?現地読みなら「アルヘンティナ」だし、「チレ」になる。わざわざ一般的な日本での表記を変える意味があるのだろうか?装丁もなんだかいかにも「教科書」というか「参考書」くさくて、イヤな感じ。書籍としてはちょっとひどいなと思う。

アルゼンチンと同様ウルグアイも白人の国である。ブラジルは黒人も多いし、ペルーなんかはインディオも、インディオとの混血も多い。それが白人ばかりなのは、インディオを虐殺してしまったからだ、と思っていた。しかし、ペルーのように古代文明が発達していなかったため元々人口が少なかったこと、ブラジルのような手間のかかる大規模プランターが発達したわけではないため黒人奴隷の労働力を必要としなかったことが理由として大きいと、この本を読んで初めて知った。確かにパンパの牧畜にはそれほど人手は必要ないだろう。

プンタ・デル・エステ(ウルグアイ)やマル・デル・プラタ(アルゼンチン)あたりは私も一度は行ってみたいリゾート地だ。