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2010年1月

2010年1月13日

崩壊/オラシオ・カステジャーノス・モヤ

崩壊エルサルバドルという国の名前を聞いて思い起こせるものが少ない。ニカラグアならサンディニスタ!とか言えるのだけれど、元々中米には私は弱い。だが、「サッカー戦争」のことは知っている。ホンジュラスとエルサルバドルの間で起きた戦争で、100時間戦争とも呼ばれる短い戦争だ。W杯予選の中で隣り合っている両国の対戦で、エルサルバドルのホームで行われた試合の前日、ホンジュラスの選手のホテルの前で一晩中騒いで寝かせず、エルサルバドルが勝ったという話。試合に負けたホンジュラスが国交断絶を宣言した。単純にサッカーだけでいきなり戦争になるわけもなく、サッカーはきっかけにすぎないだろうなと思っていた。けれど、具体的にそれ以前に両国の間に何があったのかは、この本をきっかけに調べてみて初めて知った。

本書はあるホンジュラスの名家のサッカー戦争前後の物語。3部に分かれていて、それぞれ形式が異なる。第一部はほぼ戯曲のようなスタイル、第二部は書簡集、第三部は回想録となっている。名家出身の高圧的な母、政治家の父、母と折り合いの悪い娘、エルサルバドル人の娘婿らが登場する。

第一部は娘の結婚式の当日のお話。とにかく、この母親のヒステリックでメチャクチャな話にこちらが神経症にでもなりそうなほど。粘り強くまっとうな父親が、ちゃんと対応しているのが不思議なくらい。読んでいて不快感が強い。でも早く読み終えたくて、ついつい一生懸命読み込んでしまう。作者の得意技なんだろう。

第二部は戦争前夜のお話。娘の書簡がメインなので、第一部のような不快感はないが、戦争の当事者である両国の出身の夫婦なので、緊迫感がすごい。徐々に戦争に突入していく様子や戦後の混乱が事細かに語られる。

第三部は打って変わって静かなムード。20年以上経過した後、母親の死を間近にした一家を使用人が語る回想録になっている。

母親がとにかくムカムカする。こんな母親なら誰でも逃げ出したくなる。けれど、この母親と娘の対立は現代的というか、今そこで起きている対立であるところに、ふと気づく。時代も場所も異なるのに、普遍的なテーマなのだろうと思う。とにかく、最初から最後まで一気に読ませる本だと思う。なかなか知るチャンスのない国の話なので、とても興味深くおもしろく読めた。

■著者:オラシオ・カステジャーノス モヤ著,寺尾 隆吉訳
■書誌事項:現代企画室 2009.10.30 676p ISBN4773809108/ISBN978-4773809107
■原題:Desmoronamiento : Horacio Castellanos Moya, 2006