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2012

竜のかわいい七つの子/九井諒子

竜のかわいい七つの子/九井諒子エンターブレイン 2012.10.26 (ビームコミックス)

空想の生物たちと人間のふれあいを描いた作品集。

この作品集に登場するのは竜、人魚、魚の姿をした神様、屏風の虎や獅子や竜、狼男、超能力者。最後だけ人間だが、少し普通とは違う人間なので良いとしよう。マンガにはよく取り上げられるファンタジックな動物たちが、ちょっとこれまでの路線と異なった角度から、描かれている。

「竜の小塔」
竜が登場する物語の舞台は中国か、あるいは中世ヨーロッパのような雰囲気がよく似合う。これは中世のような時代を舞台に、山の国と海の国で敵対しているちょうどその真ん中に竜が巣をつくり、タマゴを産んでしまったことから起こる顛末を描いている。
前作にもよく出てきた雰囲気のファンタジーだが、竜の子が頑張ってる姿がいとおしい。

「人魚禁漁区」
漫画に登場する人魚もいろいろと読んだ。やっぱり印象的なのが高橋留美子の「人魚」シリーズ。これは人魚じたいが主役なわけではないのだけど。それから小玉ユキの「光の海」も好きだった。小玉ユキの人魚も言葉はわかるけれど、やっぱり「動物」という設定だったと思う。人魚というからには美しいのでどうしても男の子は魅せられてしまうわけですが。この作品は過剰な動物愛護と人間の生きるということの狭間というところで苦しんでいる少年は何に向かわせたのかという流れが素晴らしい。コミュニケーションが出来ないわけではないが困難であるという人魚と人間がともに生きる方策を考えているが、単純に人間と動物の関係性を憂えているというわけではなさそうだ。

「わたしのかみさま」
魚の形をした神様と小学生の女の子のお話。この女の子のように「○○しないと...××になるよ」と否定形で育てられた子には彼女の恐怖心がわかると思う。「○○しないと...」の後がなかったら、じゃあ自分はどうなるんだ?という不安。
ところで、この集合住宅の家は何だ?
...話は違うが、この子のお父さんはなかなかいい。

「狼は嘘をつかない」
架空の病気「狼男症候群」に悩む大学生の男の子とその母親のお話。この作品の背景を説明するために最初に導入された、育児エッセイ風の8ページの漫画が最高に面白かった。これだけで終わりでもよかったほど。よく、こんなのをパロディにしたなぁと思う。難病、障害をもつお子さん向けの育児漫画っぽい。保護者の交流会が開かれるとか、薬の副作用のあたりが、特にそう感じさせる。
本編に入り、あのかわいらしい梅谷けー太くんがとても母親に対して失礼な態度をとっているのにムっとする。ここがまぁ、作者のうまいところでもあるのだ。狼男になっている間の様子が、言い換えると統合失調症でパニック起こしている状態の人や二重人格の人と同じような印象だ。そんなお話をこれだけおもしろ楽しく仕上げられるとは、すごい力だなと思う。

「金なし白祿」
両目を描くと命が吹き込まれて絵から飛び出してしまうので、必ず片目しか描き入れなかった日本画家が詐欺にあったために、やむを得ず両目を入れようとするが...。
虎や獅子や馬なども出てくるが、これも竜の鱗がここでもキーワード。
墨で書いた日本画から漫画の中に生きた人物として登場させるのは、明らかに描き分けないとならないので、たいへんだったろうと思うが、その違いはよくわかる。ほろりとさせる物語。

「子がかわいいと竜は鳴く」
皇帝が重い病気にかかり、それを治すための竜の鱗をとりに皇帝の息子がやって来る。村にいた一人の女性が道案内を申し出て皇帝の息子らに同行するた...。
この作品は試し読みがある。再び竜が登場。今度の竜は、なかなかにクールな面を見せてくれる。

「犬谷家の人々」
全員が超能力を持つ一族に生まれた双子の女の子。双子の姉は次元を操る能力、父はテレパス、母はサイコキネシスト。双子の妹は、「着ているものをパジャマに変える」という、いったい何の役に立つのかわからない能力だった。能力が開発されたお祝いに一族が集まるが...。
特殊な能力をもつ一族の中で能力が低いとコンプレックスを抱く子を見ているとブラッドベリの、というよりは萩尾望都の「集会」という作品を思い出した。

前作に比べて、竜以外の作品を扱っているだけあって幅が広がって来たように感じる。ものすごく絵が上手というわけではないのに、何故かコミナタにカバー制作のレポートが記事になっているあたりが、興味深い。でも素敵なカバーだと思う。

九井諒子「九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子」カバー制作過程を密着レポート(コミックナタリー)


■初出誌
「竜の小塔」......Fellows! 2011-AUGUST volume 18
「人魚禁漁区」......2011年5月 個人誌にて発行
「わたしのかみさま」......Fellows!(Q) 2011 AUTUMN ...Quiet
「狼は嘘をつかない」......Fellows! 2012-JUNE volume 23
「金なし白祿」......2011年10月 個人誌にて発行
「子がかわいいと竜は鳴く」......描き下ろし
「犬谷家の人々」......Fellows!(Q) 2012-AUTUMN ...Q.E.D.