2011年6月のエントリー一覧

06/27

2011

関根くんの恋 第2巻/河内遙

関根くんの恋 2/河内遙太田出版 2010.12.30 (f x comics) ISBN978-4-778-32129-1


2巻では関根くんが何故「残念」なのかが次第に明らかになって行きます。彼はおそらく30年もの間、他人との軋轢に悩んだことがないのです。普通は思春期くらいの時期から自分の中におきる感情を「これは何だろう?」と考えていきます。それはおおむね他人との軋轢をきっかけにすることが多いと思います。直接的な軋轢でなくとも他人を妬んだり憧れたりすることで、自分の感情と向き合っていかざるを得なくなります。それが結局は「自分とは何か?」を考えることにつながります。30年経ってようやく自分には何かに夢中になった経験がなく、空っぽであることに気付いたっていうのは驚きですが、実際にそういう人がいるのかもしれません。

自分の中の胸のざわつきが何なのか考えてもみようとしなかったから、数音先輩を見ると嫌悪感しかわかなかった。それは彼の中におきた感情が理解できないものだったからでしょう。何をやってもそこそこ出来るので、コンプレックスを感じることもなく、他人と自分を比較することもなかったのでしょう。

それでも紺野くんをキライながら、付き合っているのは数音先輩のことだけでなく、何かが紺野くんにあると感じているのかもしれません。あるいは関根くんには生来のつきあいの良さみたいなものがあるのかもしれません。だからこそ他人からひどく嫌われるようなことはなかったのかもしれない。

普通はそれでも悪い意味でちょっかいを出して来る人がいるので、その辺からいろいろと自分のことがわかっていくものなんですが。だから堂島くんは登場する必然性があったのだと思います。

サラのおかげで数音さんの呪縛から離れられた関根くんは、どこへ行くのでしょうか?

■初出誌
関根くんの恋 第6話 ...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.62
関根くんの恋 第7話 受難の始まり...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.63
関根くんの恋 第8話 鈍痛...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.64
関根くんの恋 第9話 前震...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.65
関根くんの恋 第10話 急転直下...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.66
関根くんのバレンタイン...描き下ろし

06/27

2011

オーミ先生の微熱 第1巻/河内遙

オーミ先生の微熱 1/河内遙小学館 2010.11.3 (ビッグコミックス) ISBN978-4-09-183490-4


先生と生徒というテーマは「真空片戀パック」からあったものですが、今度は男性同士です。一昔前は青年誌にBLは御法度でしたが、「きのう何たべた?」あたりからプラトニックならありという感じになってきたようです。オーミ先生は熱血教師ですが、ほとんどのことに下心ありなので、何だかなぁという感じがかえっていいです。ストレートに熱血なのは読者は受け入れにくいですからね。

鳥飼さんは杉本くんが好きだったんだろうなという描き方をしていますが、それを現在にまで引っ張っているようには見えず、そうなると近江くんのことをどう思っているのか、おいおいわかるでしょう。単行本を読む限り、杉本くんは鬼籍に入っているような感じですが、後で登場するのかもしれません。

青年誌と少女誌では読者の数がわけが違います。女性誌を読む男性はもちろんいますが、青年誌を読む女性の数には比較になりません。いよいよ河内遙も青年誌に進出か、と歓迎すべき事態だったのですが、月刊誌1本と各月刊誌1本にプラス週刊誌というのは無理でした。もともとずっと一人で全部描いて来た人で、アシスタントを導入するのはおそらく2009年後半頃からではないかと推察しますが、それもかなり限定的だったようです。どうやら8話を9号分に載せているところを見ると、毎週ちゃんと載せていたようですね。現在休載中ですが、女性誌の方の連載が終われば復活するでしょう。

■初出誌
『週刊ビッグコミックスピリッツ』No.30~38(2010年)

06/14

2011

えへん、龍之介/松田奈緒子

えへん、龍之介/松田奈緒子講談社 2011.6.13 (KCデラックス) ISBN978-4-06-376077-4


私はこの著者のスピード感というか、勢いのある物語展開とそれに合った絵柄が好きなのだが、今回のこの「えへん、龍之介」は驚くほどていねいだ。他の作品を雑だと言っているわけではない。ただ、今回は特別ゆったりと濃密に時間が流れているような気がする。人物も風景も物語も、すべてがていねいで、細やかな印象だ。この作品をじっくりと読ませる力は、作者の強い思い入れなのだろうか?20年も暖めてきてようやく日の目を見た作品だそうだから、引き込まれても当然か。

芥川龍之介と言えば、文壇のエリート、若い頃から作家として嘱望され、古典的で美しい作品を書く、日本を代表する作家の一人。この人物を描きたくて描きたくて、仕方がなかったんだろうと思った。龍之介はエリートであることは間違いないのだが、実は苦労人。女にだまされる間抜けな面や、父親としてのダメな面も、友人として気持ちの良い面や育ちの良い面もある。鴎外もそうだったが、この当時、作家と言う進歩的な職業の人ですら、妻というものは家に嫁ぐもので、自分が娶るものではないという意識があり、そしてその方がおおむねうまくいく。ただ、やはり作家なので、女遊びはどうしてもすることになるのだけれど、そのうまい下手があって、芥川龍之介という人は明らかに下手だったようだ。そして、芥川の問いに「幸せだ」と当然のように答える文がいい。

彼が自分の自負心をくすぐられたり、ちょっとあらたまったりする場面で「えへん」とやっているのだが、これがなんともツンデレっぽくて、彼を魅力的に見せる。

しかし、「東北5号」から少し作品のテンポが変わって来たような印象を受ける。ちょっと慣れないが、悪くないと思う。何より、この時代の作品を描くのに、絵柄は合っている。明治・大正時代の着物姿を当時の空気を感じさせるように描ける作家なんだなぁと感じた。


■初出誌
「BE LOVE」2010年第15号~17号、2011年第4号~7号