2013年10月のエントリー一覧

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2013

重版出来!第2巻/松田奈緒子

重版出来! 2「重版出来!」1巻が「本をどう売るか」という書店・出版営業の話が中心だったのに対し、2巻は漫画家の作家性、DTPオペレーターの現場、編集者とSNS、電子書籍と消えた漫画家というテーマになった。ずっと漫画の現場が舞台で漫画編集者が主役なため漫画家は常にいるのだが、前巻より少し漫画家中心になってきたように感じる。漫画家の「業」のようなものが、何度も登場する。作者は漫画家なのだから、当然この辺りはリアルで切実なものがある。

特に漫画家「高畑一寸」が彼女に振り回されたり、後輩の活躍に焦りを感じたり、引き抜きに心惑わされたり、自分を見いだしてくれた編集者に操を立てたり、といったあたりはとても繊細な描写になっている。

漫画家に描きたいものを描かせてどうする!描きたいシーンしか描かないぞ。描きたくないような地味なコマを重ねて、やっと辿り着くのが「物語」だよ。

という編集者の言葉は
(今)描きたいものが描けているかというかと、正直違う。違うんだけど、俺は自分では描けると思ってなかったものを描けてるんだ。

という漫画家の言葉と呼応するような名台詞だと思う。

その流れの中にうまくDTPのお話が組み込まれている。これは制作現場の中でも最も地味な仕事の一つだ。だが、もちろん、今の時代の漫画制作の流れでは、重要な工程の一つだ。印刷に入る前にDTPオペレーターの手でアナログ原稿はスキャンしなくてはならない。ここで描かれているゴミ外しや線をきれいに出すための作業は、少しは感じがわかる。作家の原稿がデジタル入稿の場合、コマのフォントも自分で指定している場合もあるだろうけれど、出版社の使っているフォント以外は(フリー以外は)使えないし、この工程が完全スルーということはなかなか難しいのではないかと想像する。

ギリギリのスケジュールで原稿が届いてから作業が完了するまでの行き詰まる感じ。実際は地味~にシーンと作業をしているのだが、これだけ躍動感と緊張感のあふれる絵で表現してくれたのは、DTPオペレーターでもないくせに、なぜかとても嬉しい。デザイナーさんたちのような華やかさはないけれど、とても職人気質な人たちだ。

次にSNS。編集者がSNSでやることと言えば宣伝と読者とのコミュニケーション。編集者の中にはSNS利用が上手な人と下手な人がいる。それは男女年齢に関係がない。若い女性がうまいとは限らず、中年の男性でもマメに上手に個性を出しながらやっている人もいる。この作品の担当編集者はとてもtwitterの使い方が上手で、マメな宣伝・告知は当然のことながら、読者とのやりとりもうまい。こういう人が担当なら、このテーマは避けて通れないだろう。壬生のような古いタイプの編集者にとっては、目の前にいる心のような新しいタイプの編集者はちょっと反発を覚えてしまうだろうと思う。SNSはたいていはこの作品にあるように、上から「やれ」と言われて始めるのだが、仕事以外でも使いこなせていたからスっと入れた人、初めて使うわりにすんなり使える人もいるが、多くの人はよろよろしながら少しずつ覚えていく。SNSにはリスクもあるが、宣伝効果は大きいだろうと私は思っている。

小学館漫画編集部は青年誌、少年誌、少女誌はちゃんとtwitterをやっているが、なぜか女性誌がない。確かに女性漫画誌の読者層は比較的SNSに弱いかもしれないが、それでもバカにしたものでもない。他社の女性漫画誌も公式で新号の作品ごとのコメントや新刊の告知くらいはやっている。いっぺんに投稿し過ぎてTLを占領されるので、Bufferなど自動投稿APPなどを使い、もう少し間隔を明けて投稿して欲しいとは正直思うが、それでもないよりはありがたい。公式アカウントと編集者のアカウントでは役割も違うし、編集者アカウントの方が難しいとは思うので、公式だけでもいいからやるべきではないか、というかやって下さい、いいかげん。

最後に電子出版と消えた漫画家だ。これがドラマとしては一番切ないお話になった。牛露田先生が帰って来てくれると信じよう。電子書籍もコマ割時代の傷跡は残るものの、少しずつ払拭されているが、まだまだ新刊と同時は難しいようだ。こんなふうに電子書籍について描かれた作品が電子書籍になっていないとは、なんという皮肉。出版界全体の問題だが、読者としては早く両方の媒体でいっぺんに新刊を出して欲しい。私なぞ間違いなく、これまで以上に本に注ぎ込む金額が増えると予想され、怖いと言えば怖いが...(今でも相当使ってると思う)。

女性漫画誌と青年漫画誌とではキャラクターの性格づけや物語の展開、線の太さ、コマ割りなども少しずつ違うと聞く。作者はずっと女性漫画誌でやってきた方なので、合わせるのに苦労されたのではないかと想像する。とは言え、同じ漫画なので、面白ければ女性でも男性でもついていく。これだけお仕事漫画としてのエンターテイメントに徹することが出来たら、やっぱり売れると思う。でも薄っぺらい感じはまったくしない。多くの読者が松田奈緒子作品を面白いと感じてくれるようになって、本当に嬉しい。おかげでサイン会に行くこともできた。連載で読んでいるが、次の巻もまた楽しみだ。

重版出来!1巻

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2013

「重版出来!」第2集発売記念 松田奈緒子先生サイン会

重版出来!スタッフTシャツようやく実現された松田奈緒子先生サイン会。2009年5月24日に吉祥寺ブックス・ルーエで「花吐き乙女」第1巻刊行記念サイン会が行われる予定だったのですが、新型インフルエンザのせいで中止になりました。(更に2012年7月28日米沢嘉博記念図書館での「孤独のグルメ」の新保信長さんのトークショーに行けなくて、当然いらっしゃった松田先生にもお会いできずガクリ)。サイン会は編集部が企画するイベントではなく、書店さんが企画してくれなくては実現出来ないそうです。「重版出来!」の1巻が好評だったので、2巻では何か起こるかもと期待していました。それにしても神保町の三省堂書店でやって下さるとは。ありがとうございます。

三省堂書店神保町本店のサイン会は小説家が多く、漫画家のサイン会はあまりないそうです。入口のものすごい目立つ場所でやるのでちょっと驚きました。他の書店だともう少し脇とか別フロアとかが多いように思います。スタッフTシャツが黄色で目立ちましたが、これは非売品だそうです。残念(許可をいただいて撮影してます)。スタッフの方が「こんなにたくさんお花をいっぺんにいただいたのは初めてです」とおっしゃってました。

KADOKAWAメディアファクトリー、大物女性漫画家ご一同様(羽海野チカ、おかざき真里、末次由紀、ひうらさとる、ヤマザキマリ、コンドウアキ、相澤タロウイチ...あっ女性じゃない!敬称略)、久世番子様、アシスタントご一同様、Kiss編集部、Be-Love編集部などたくさんのお花が寄せられていました。やはりキャリアの長さに鑑みると初サイン会というのは遅咲きなのかもしれません。

予約は100名でしたが、少しオーバーして120名くらいまでOKにしたそうです。開場5分前から並んでサインしていただいたので終わりの方がわかりませんが、かなり時間がかかったのだと思います。

松田先生はとてもスリムな美女で、みなさんお一人お一人にていねいに、こころちゃんとお名前を描かれていらっしゃいました。そして、会場ではジョニデ似のイケメンのご主人が見守っておられました。先生のお隣には編集担当の小学館・山内菜緒子さんがスタッフTシャツでイケイケな感じで「責了」ハンコを押されていました。

為書きの提出用紙に名前を書いてお出ししたら、先生が名前だけで「あっ」とおっしゃって下さって、感激というか、それで舞い上がってしまい、もう。ダメですね...。それでもって、サインの写真をあげていいかどうかも聞くのを忘れてしまいました。日付が10.13になってることにすら気付かず、ホント、舞い上がっていてすみません。途中でどなたかがきっとご指摘されたことでしょう...。

多分10年くらい待ったんじゃないかと思います...。お会いできてよかった。これからも応援しています。


『重版出来!』第2集発売記念松田奈緒子先生サイン会

2013年10月14日(月・祝) 14:00~(開場13:30)
三省堂書店 神保町本店 1階特設会場