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戯曲

救いの猫ロリータはいま……

初出:『テアトロ』1985年7月号
収録:「花のさかりに…」p83~154 テアトロ 1986.12.10
「清水邦夫全仕事1981~1991下」p7~48 河出書房新社 1992.11.30

救いの猫ロリータはいま…… パンフ表紙
【上演データ】
1985(昭60)年5月31日~6月9日
演劇集団円公演
会場:紀伊國屋ホール
演出:村田大
美術:朝倉攝
照明:五十嵐正夫
効果:深川定次
舞台監督:山下悟
制作:若狭隆人
出演:岸田今日子/立石凉子/平栗あつみ/小林宏史/田原正治
地方公演:1985年6月13~14日 尼崎ピッコロシアター/6月16日京都府綾部・中央会館
【あらすじ】
 夕暮れの田舎の図書館の分室。ここに旅行中の若い男女が飛び込んで来る。スポーツをやっている学生と女優の卵らしい。二人はついさっき予約していた民宿の目の前まで行ったのだが、何となく気に入らなくてUターンしてしまい、ふらっと図書館にやって来たのだ。
 女の方が突然卒業公演の芝居をやり始めたため、図書館の職員がやって来る。一人は室長らしい女、もう一人はその部下らしい男。二人が閲覧室からいなくなると、入れ替わりスキー帽をかぶった中年の女が閲覧室に入り、じっと二人の様子を伺っている。気味が悪くなったため問いただすと、さっき目の前まで行って逃げ出した民宿の主人だった。女はキャンセルを取り消すよう二人にしつこく食い下がるが、拒絶される。
 そして図書館には、近くに住みながら話したことがない室長と民宿の主人、そして部下の男の三人が残されることになったが…
【コメント】
 過去と現在の区別がつかなくなるような幻想に惑わされる人物はしばしば登場して来ますが、この作品の主人公は特に強烈です。どこまでが演技かどこまでが本気かよくわからない人物も同様。いずれにせよ、気持ちの悪さでは最高の主人公でしょう。
 意外なことに岸田今日子が所属する演劇集団・円にはこの一本しか書いていません。後述する理由から、もっとたくさん書いて欲しかったんですが…。
 図書館という空間は人の出入りからすると使いやすそうですし、日常と違う空気をもつ場所ですから演劇的なムードも満点です。しかし、それに寄りかかって単なる入れ物として扱わなかったところが面白かった。閉じこめる、あるいは閉じこもる、という行為の不可思議な感覚が感じられました。
 実は清水作品をちゃんと見たのはこれが初めてでした。人に連れて行かれたんですが、この時はそれほど強い印象を受けませんでした(次の「ボレロ」の再演でガーンと…)。で、相当後になって気付いたんですけど、平栗さん(何故か敬称がついちゃうんですが、愛称みたいなもんだと思って下さい)出てたんですよね~。全然覚えてなかった。「幕末純情伝」で惚れ込んで以来、ほとんどの出演作を制覇している私としては結構ショックでした。
 年齢を重ねて、もっと深みのあるいい女優になって、私が最高の女優だと信じている松本典子のようになってくれたらいいなぁと思ってずーっと見ていました。最近「熱海殺人事件」(1998年10月再演予定)しかやらないし、円も辞めちゃったし…TPT公演もしばらくなさそうだし…。もっと派手にばーっと羽ばたいて欲しい女優さんです。
 


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