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戯曲

「夜よ おれを叫びと逆毛で充す 青春の夜よ

1976年の作品
初出:『群像』1977年1月号
収録:「夜よ おれを叫びと逆毛で充す 青春の夜よ」p5~73 講談社 1977.10.20
「清水邦夫全仕事1958~1980下」p161~197 河出書房新社 1992.6.20

受賞:紀伊國屋演劇賞(第11回・1976年度)個人賞

【上演データ】
1976(昭51)年11月12日~18日
木冬社第1回公演
会場:ABC会館ホール
/12月2日神奈川県民ホール
演出:清水邦夫
演出補:篠崎光正
美術:山崎泰孝/加藤義夫
照明:河野竜夫
音楽:萩原健一
効果:山本泰敬
舞台監督:石田英朗
出演:山崎努(あに)/松本典子(ゆき)/立川光貴(おとうと)/新野加代子(勝子)/大友龍三郎(源十)/中野礼子(はな)/安部玉絵(しか)/山本紀子(葉子)/菊池信吾(たもん)
1979(昭54)年11月25日~30日
木山事務所公演
会場:渋谷ジァンジァン
演出:藤原新平
美術:清水邦夫/濃野壮一
照明:日高勝彦
音響:深川定次
出演:佐藤オリエ/西岡徳馬/直井修/他
【あらすじ】
 北の果てのにしん漁場。かつては入江いっぱいににしんが群来し、多くの労働者がながれて来た。その中には犯罪者もいたが、網元はにしん番屋にかくまい、警察の追求を防いでいた。
 今は使われていないにしん番屋の一つに「あに」が住みついている。彼はここにいつく浮浪者が犯罪者で、自分はそれをかくまう責任があるという妄想にとりつかれている。
 そこへ祝巫女姿のゆきと勝子が沖つ神事の舞の稽古をしながらやって来る。ゆきは「あに」の父親の後妻で、あにとは5歳しか離れていない。弟の次郎が3年ぶりに帰郷し、あにの様子をさぐるが、あにはゆきの顔すら忘れ、ゆきは海の底に沈んでいると思いこんでいる。
 ゆき達とあにの関係を修復すべく、おとうとはゆき達に嘘でもいいから犯罪を犯したと告白すれば、あにの興味がわくと、ゆきに告白を勧める。そこでゆきが語った犯罪とは…。
【コメント】
 清水邦夫の再出発の一作です。舞台は詳しくは書かれていませんが、日本海の漁村を想起させます。木冬社としての第一作であり、本格的に松本典子という女優をクローズアップした作品です。
 ここでも兄と弟の関係が核に据えられています。二人は二人にしかわからない合言葉で通じ合い、狂気の兄も弟にだけは心開きます。そして二人でゲームを始める。芝居がかった嘘のゲームによって過去の一家の姿が現れて来るといった趣向です。
 兄と弟の前に初めて女の存在が入って来ます。夫の死後16年もの間、狂気にとりつかれた5歳しか違わない義理の息子との関係の修復をはかろうと、じっと耐えていたけれど、彼に顔を忘れられたとたん、糸が切れたかのように過去を語り始める。驚異的な辛抱強さとタブーを打ち破る凶器のような鋭さをもった女性で、後の清水作品に現れる女性の原型と言えるでしょう。この女性は様々に形を変えて以後途切れることなく登場します。
 全体的に新しい言葉・新しい舞台を模索中といった感じのある作品です。
 


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