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戯曲

雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた

初出:1982
収録:「清水邦夫の世界」p116~163 白水社 1982.5.7
「清水邦夫全仕事1981~1991上」p139~191 河出書房新社 1992.11.30

※『ミュージカル』誌ベストテン(1982年度)スタッフ部門・第10位

【上演データ】 「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」パンフレット表紙
1982(昭57)年5月4日~28日
東宝プロデュース公演
会場:日生劇場
曲:ニナ・ハーゲン+キング・クリムゾン+バッハ
演出:蜷川幸雄
美術:妹尾河童
照明:吉井澄雄
衣裳:小峰リリー
音楽:甲斐正人
振付:川西清彦
効果:高橋巌
出演:淡島千景(風吹景子)/久慈あさみ(弥生俊)/佐藤慶(新村久)/渡辺文雄(坪田英次郎)/三谷昇(六角始)/山谷初男(畑米八)/仲恭司(北村英一)/汀夏子(加納夏子)/甲にしき(弥生理恵)/加茂さくら(直江津砂織)/高殿ゆかり(城崎すみ江)/渕野俊太(北村次郎)/夏亜矢子/若山かずみ/姿美也子/久松今日子/旭天女/大町桂子/千羽鶴/宮城麗子/淡島千尋/杉四季子/明津珠女/早乙女寿美江/白州三千代/加寿賀きよし/三枝夏実/萩雅恵/茜美樹/菊かほり/麗たつみ//流けい子/杉まりこ/山田昌代/水の瀬あきら/志吹直美/山科志子/美濃ゆたか/沢かをり/上原まり/玉梓真紀/三谷侑未/野路きくみ/水乃亮/秋月みさを/美奈瀬杏/吉田キヨミ/小野真理子/藤咲章恵/松永真以子

【あらすじ】
 深夜の百貨店。かつてここにあった石楠花少女歌劇団のヒロイン風吹景子と、その熱烈なファンで、今や地位も名もある五人のロミオたちが優雅に踊っている。それは、戦争中に記憶をなくした景子が三十年ぶりに蘇り、再び歌劇団を結成するための稽古だった。
 仲間かつての相手役、弥生俊の出現を心待ちにしていた景子だったが、ちりぢりになった歌劇団のメンバーを呼び集めても俊はやって来ない。ところが俊の妹と名乗る女が現れ…。

【コメント】
 実に9年ぶりに蜷川幸雄と組んだ作品です。日生劇場やら近松ものやらで鍛えられ、大演出家への道を順調に歩く蜷川さんと何故この時に組むことになったのかは不明です。ただ、宝塚を取り上げた理由はちらほらと書かれています。二人がかつて組んでいた頃はひたすら男ばかりのホモの集団を描いていたわけです。それが特殊な集団ではなく風俗の一種となって新鮮さとか面白みがなくなってしまったために、女の集団(レズじゃないけど、俊さんなんてかなりそれっぽい)を扱ってみたくなったという話です。
 それにしても宝塚を題材にしたミュージカル…なんて聞くとこれまでの清水作品と随分イメージが違いますが、そこはそれ、そう型通りに行くはずがありません。ずいぶんと年老いた宝塚ですし、稽古場はデパートの地下なんて妙な舞台装置です。例によって登場人物の大半は追憶の中で生きる人々だし。その中に紛れ込むように、現在を生きる男と女がちゃんと配置されているのが絶妙。
 さぞかし華やかでスペクタクルな舞台になったことでしょう。でも…加茂さくらがクリムゾンの「エピタフ」を宝塚風に歌うって…想像出来ない…

【再演】 「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」再演チラシ
2009(平21)年5月6日~30日
主催・企画・制作:Bunkamura(特設サイト
会場:シアターコクーン
曲:ニナ・ハーゲン+キング・クリムゾン+忌野清志郎
作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄
美術:中越司
照明:室伏生大
音楽:門司肇
振付:広崎うらん
音響:井上正弘
衣裳:小峰リリー
ヘアメイク:鎌田直樹
演出補:井上尊晶
舞台監督:濱野貴彦
出演:鳳蘭(弥生俊)/三田和代(風吹景子)/真琴つばさ(弥生理恵)/中川安奈(加納夏子)/毬谷友子(直江津砂織)/石井愃一(畑米八)/磯部勉(坪田英次郎)/山本龍二(六角始)/横田栄司(北村英一)/ウエンツ瑛士(北村次郎)/古谷一行(新村久)

【コメント】
初演から27年経っての再演です。私はさすがに初演は見ていませんが、蜷川さんが初演より良い演出と自信を持っておっしゃっているので、そうなのでしょう。
Bunkamuraは東急百貨店の隣にあり、東急文化村なので、当然連携がされています。開演前、舞台のカーテン代わりにデパートのきれいなショーウィンドウが立っていたのですが、これが当たり前のようですが、東急百貨店風。つまりとても今風なので、戦後30年、という言葉が嘘っぽいです。場末の、ではないにせよ、もう少し地方のデパートらしさがあっても良い気はしました。
初演の舞台もやはり大階段だったようですが、おそらくは今回の方が高さがあったのではないかと思います。宝塚本体の大階段の方が横幅は断然ありますが、高さはコクーンの方もそこそこでしょう。その大階段に電飾をつけており、その点は本場の宝塚に近づけたようです。本場ほどではありませんが、なかなか華やかな舞台になりました。
初演は全員宝塚出身者だったそうですが、今回は鳳欄と真琴つばさ、毬谷友子、衣通真由美以外はどうやらヅカ出身者はいないようです。30人のジュリエットたちの平均年齢は53歳だそうで、最初「さいたまゴールドシアター(55才以上の役者のみで作られた蜷川さん演出の劇団)」から引っ張ってきたのかと思いました。が、よく見ると、とんでもなく皆さん芸がある。幕間にパンフレットを見ると、フリーの方も多数いますが、文学座、民藝、青年座、声俳、円ほかの劇団の中堅~ベテランを引っ張ってきたことがわかりました。モブの使い方のうまさは相変わらず、さすがの蜷川さんですが、壮観です。
ロミオとジュリエットの台詞に他の古典の台詞やオリジナルを織り交ぜた戯曲は、私にはおなじみのものです。夢見る人(風吹景子)の狂気が周囲の人を巻き込み、大きな渦となり、最後は悲劇で終わるという流れは、いつものことですが、ロマンチックで残酷です。視覚を失ったまま30年も生きながらえた弥生俊が殉じても良いと思えるだけの狂気を三田和代は演じきっていたと思いました。
曲ですが、クリムゾンのエピタフはありました。BGとしてはそのまま流れていましたが、毬谷知子が歌っていたのは違う歌ですよね、きっと。。。クリムゾンと冒頭のニナ・ハーゲンは残して、ほかは全部変えたとパンフレットで蜷川さんが言ってました。エンディングが忌野清志郎の「Day Dream Believer」でしたが、これは2009年5月2日に亡くなられた直後に開幕したので、急に変えたのでしょうね、きっと。もしもともと清志郎だったら驚きます。
2009.5.10(日)マチネ
 


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