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戯曲

ラヴレター―愛と火の精神分析

初出:1984
収録:「清水邦夫全仕事1981~1991上」p421~484 河出書房新社 1992.11.30

【上演データ】
1984(昭59)年7月
木冬社第10回公演
会場:紀伊國屋ホール
演出:清水邦夫
美術:朝倉攝
照明:服部基
音響:深川定次
出演:吉行和子/松本典子/中村美代子/磯部勉/他
受賞:紀伊國屋演劇賞(第19回・1984年度)個人賞(松本典子)
【あらすじ】
 北陸の海の近くにある街。高校生の吉村眩太は母を早くに亡くし、今は駅員の父と二人の妹の4人で暮らしている。ある日突然、父が駅前ホテル・北陽館の未亡人と再婚することになり、眩太や妹も一緒に北陽館に移り住むことになる。
 義理の母になる女性は強烈な人で、最初から眩太と対立し、一緒には暮らせないと飛び出そうとしたが、男っぽい性格の義母・りんには美しい夢見るような妹がいて、彼女に惹かれた眩太はそのまま北陽館に住みつくことになる。
 翌年の夏、父が亡くなって、ますますりんに頼らざるを得ない眩太たち。妹たちはそれなりに義母と親しくなっているのだが、眩太は相変わらずのまま五年が過ぎた…。
【コメント】
 ホテルというか田舎の駅前旅館が舞台なんですが、ちょっとありふれた感じはします。人の出入りが常にある場所は舞台にしやすいそうです。また、ふわ~んとした感じの、ちょっと精神的におかしい、昔女優をやっていた夢見がちなの女性と、男っぽく激情家で、きつい性格の女性、というのも、これまでの清水作品にはしばしば登場してきた女性です。幻の弟も「あの愛の一群たち」で既に登場しています。しかしながら、人間関係の構造が面白いです。年齢のあまり離れていない義理の親子、という点です。
 もちろん(今回は)二人の間にロマンスが生まれるほどの年齢の近さはありません。けれど丁々発止のやりとりを二人が楽しんでいたことは間違いない。この舞台は松本典子・吉行和子の油の乗り切った女優さん二人に、一人果敢に挑む青年が絶対に必要でした。それがおそらく磯部勉だったのでしょう。
 舞台でその「弟」と言われるより脚本で「おとうと」と文字が飛び込んで来ると全く印象が違いますね。もし舞台でその言葉が「おとうと」という響きをもっていたら、これは凄いことでしょう。「本当の男は強さ」と「本当の男は勁さ」もまったく違います。だから戯曲は面白い。
 「有名な芝居をあれこれコラージュしただけなんだから」なんて自虐的な台詞がぽろっと漏れたり、「真情あふるることばでなくちゃ」なんて過去の作品をパロディにしたかのような台詞もあります。が、物語にはしっかりと逆転劇があり、きちっと幕も引かれています。
 最後の方、姉の本音が飛び出して来るあたり「あぁ、まったくだ。」とうなずくことしばし。脚本がちっとも古くなってない証拠だと思いました。
 


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