曲、参加アーティスト、ともにすさまじく充実したサード・アルバム。1973年3月、シングル「夢の中へ」が井上陽水初のヒット曲となり、急遽ライブを出したが、オリジナル・アルバムへの期待は高かった。結果、日本のレコード・セールスの記録を塗り替えた金字塔のようなアルバムとなった。
何故、そんなに売れたのだろう。フォークとかニューミュージックとか当時は言われていたらしいが、演歌と歌謡曲しか売れなかった時代だったのに、こういう音楽が大きく受けた理由はなんだったんだろう。それが時代の空気っていうやつだったのかな。 「心もよう」はアルバム制作中に先行でカットされたシングルだが、この曲のもつ叙情性というか、一歩間違えると演歌の世界になってしまうところがよかったのかなぁ。これは「夢の中へ」より更に売れた。
遠くで暮らす事が
二人にとってよくないのはわかっていました
くもりガラスの外は雨
私の気持ちは書けません
期待の大きさを反映してか、当時としてはめずらしく、ロンドン録音が敢行されている(1.あかずの踏切り、4.チエちゃん、5.氷の世界、12.小春おばさん、13.おやすみの5曲がロンドン録音)。また、編曲のニック・ハリスンはThe Rolling Stonesの"Angie"のアレンジャーだった。「おお舶来!」と思うほどの凄さじゃないけど、きっと当時はそう思われていたのだろう。「氷の世界」はアレンジも演奏もものすごいカッコよく出来ていて、それが若い人に受けたのではないかと想像する。「氷の世界」と「心もよう」がこのアルバムの両輪なんだろうな。
「氷の世界」は渡英前に出来上がらず、真夏のロンドンのホテル内で作ったそうだが、暑いのによく「毎日吹雪吹雪」なんて詩が書けたものだと、その話を聞いた直後は思った。しかし、「窓の外ではリンゴ売り」なんてむちゃくちゃな詩が出たのは、追いつめられて、あるいは暑くて頭がどうかしちゃってたからなのかな?なんて思ったりもした。
また、このアルバムには楽曲で参加した有名アーティストがいる。忌野清志郎と小椋佳である。「帰れない二人」「まちぼうけ」は1973年6月に行われたRCサクセションとのジョイント・コンサートで披露するために清志郎とのジョイントで作られた曲。1番の詩は陽水が、2番の詩は清志郎が書いたものである。ソロのギター、あれは高中正義だったんだなと、初めて聞いたときはわからなかった。
「白い一日」は同じプロデューサーという縁のあった小椋佳の作詞提供で、二人とも歌い、共作という形をとっている。
真っ白な陶磁器をながめては飽きもせず
かと言って触れもせず、そんなふうに君のまわりで
僕の一日が過ぎてゆく
(やっぱり私も「陶磁器」→「掃除機」と聞き違えてしまったクチです…)
「帰れない二人」「白い一日」は「氷の世界」よりも長い間聞き継がれる名曲だと思う。「氷の世界」「心もよう」がなんと言っても出色の出来だが、やはり時代感覚をもって聞かなくては、その良さがわからないかもしれない曲ではないかという気がするのだ。
「桜三月散歩道」や「チエちゃん」も小品としてはよくできている。でも、実際に一番のお気に入りは「待ちぼうけ」だったりする。これだけ良い楽曲が揃っているとかえって、こういう気が抜けたような明るい曲には本当にホっとさせられる。
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