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2013

重版出来!第2巻/松田奈緒子

重版出来! 2「重版出来!」1巻が「本をどう売るか」という書店・出版営業の話が中心だったのに対し、2巻は漫画家の作家性、DTPオペレーターの現場、編集者とSNS、電子書籍と消えた漫画家というテーマになった。ずっと漫画の現場が舞台で漫画編集者が主役なため漫画家は常にいるのだが、前巻より少し漫画家中心になってきたように感じる。漫画家の「業」のようなものが、何度も登場する。作者は漫画家なのだから、当然この辺りはリアルで切実なものがある。

特に漫画家「高畑一寸」が彼女に振り回されたり、後輩の活躍に焦りを感じたり、引き抜きに心惑わされたり、自分を見いだしてくれた編集者に操を立てたり、といったあたりはとても繊細な描写になっている。

漫画家に描きたいものを描かせてどうする!描きたいシーンしか描かないぞ。描きたくないような地味なコマを重ねて、やっと辿り着くのが「物語」だよ。

という編集者の言葉は
(今)描きたいものが描けているかというかと、正直違う。違うんだけど、俺は自分では描けると思ってなかったものを描けてるんだ。

という漫画家の言葉と呼応するような名台詞だと思う。

その流れの中にうまくDTPのお話が組み込まれている。これは制作現場の中でも最も地味な仕事の一つだ。だが、もちろん、今の時代の漫画制作の流れでは、重要な工程の一つだ。印刷に入る前にDTPオペレーターの手でアナログ原稿はスキャンしなくてはならない。ここで描かれているゴミ外しや線をきれいに出すための作業は、少しは感じがわかる。作家の原稿がデジタル入稿の場合、コマのフォントも自分で指定している場合もあるだろうけれど、出版社の使っているフォント以外は(フリー以外は)使えないし、この工程が完全スルーということはなかなか難しいのではないかと想像する。

ギリギリのスケジュールで原稿が届いてから作業が完了するまでの行き詰まる感じ。実際は地味~にシーンと作業をしているのだが、これだけ躍動感と緊張感のあふれる絵で表現してくれたのは、DTPオペレーターでもないくせに、なぜかとても嬉しい。デザイナーさんたちのような華やかさはないけれど、とても職人気質な人たちだ。

次にSNS。編集者がSNSでやることと言えば宣伝と読者とのコミュニケーション。編集者の中にはSNS利用が上手な人と下手な人がいる。それは男女年齢に関係がない。若い女性がうまいとは限らず、中年の男性でもマメに上手に個性を出しながらやっている人もいる。この作品の担当編集者はとてもtwitterの使い方が上手で、マメな宣伝・告知は当然のことながら、読者とのやりとりもうまい。こういう人が担当なら、このテーマは避けて通れないだろう。壬生のような古いタイプの編集者にとっては、目の前にいる心のような新しいタイプの編集者はちょっと反発を覚えてしまうだろうと思う。SNSはたいていはこの作品にあるように、上から「やれ」と言われて始めるのだが、仕事以外でも使いこなせていたからスっと入れた人、初めて使うわりにすんなり使える人もいるが、多くの人はよろよろしながら少しずつ覚えていく。SNSにはリスクもあるが、宣伝効果は大きいだろうと私は思っている。

小学館漫画編集部は青年誌、少年誌、少女誌はちゃんとtwitterをやっているが、なぜか女性誌がない。確かに女性漫画誌の読者層は比較的SNSに弱いかもしれないが、それでもバカにしたものでもない。他社の女性漫画誌も公式で新号の作品ごとのコメントや新刊の告知くらいはやっている。いっぺんに投稿し過ぎてTLを占領されるので、Bufferなど自動投稿APPなどを使い、もう少し間隔を明けて投稿して欲しいとは正直思うが、それでもないよりはありがたい。公式アカウントと編集者のアカウントでは役割も違うし、編集者アカウントの方が難しいとは思うので、公式だけでもいいからやるべきではないか、というかやって下さい、いいかげん。

最後に電子出版と消えた漫画家だ。これがドラマとしては一番切ないお話になった。牛露田先生が帰って来てくれると信じよう。電子書籍もコマ割時代の傷跡は残るものの、少しずつ払拭されているが、まだまだ新刊と同時は難しいようだ。こんなふうに電子書籍について描かれた作品が電子書籍になっていないとは、なんという皮肉。出版界全体の問題だが、読者としては早く両方の媒体でいっぺんに新刊を出して欲しい。私なぞ間違いなく、これまで以上に本に注ぎ込む金額が増えると予想され、怖いと言えば怖いが...(今でも相当使ってると思う)。

女性漫画誌と青年漫画誌とではキャラクターの性格づけや物語の展開、線の太さ、コマ割りなども少しずつ違うと聞く。作者はずっと女性漫画誌でやってきた方なので、合わせるのに苦労されたのではないかと想像する。とは言え、同じ漫画なので、面白ければ女性でも男性でもついていく。これだけお仕事漫画としてのエンターテイメントに徹することが出来たら、やっぱり売れると思う。でも薄っぺらい感じはまったくしない。多くの読者が松田奈緒子作品を面白いと感じてくれるようになって、本当に嬉しい。おかげでサイン会に行くこともできた。連載で読んでいるが、次の巻もまた楽しみだ。

重版出来!1巻

10/14

2013

「重版出来!」第2集発売記念 松田奈緒子先生サイン会

重版出来!スタッフTシャツようやく実現された松田奈緒子先生サイン会。2009年5月24日に吉祥寺ブックス・ルーエで「花吐き乙女」第1巻刊行記念サイン会が行われる予定だったのですが、新型インフルエンザのせいで中止になりました。(更に2012年7月28日米沢嘉博記念図書館での「孤独のグルメ」の新保信長さんのトークショーに行けなくて、当然いらっしゃった松田先生にもお会いできずガクリ)。サイン会は編集部が企画するイベントではなく、書店さんが企画してくれなくては実現出来ないそうです。「重版出来!」の1巻が好評だったので、2巻では何か起こるかもと期待していました。それにしても神保町の三省堂書店でやって下さるとは。ありがとうございます。

三省堂書店神保町本店のサイン会は小説家が多く、漫画家のサイン会はあまりないそうです。入口のものすごい目立つ場所でやるのでちょっと驚きました。他の書店だともう少し脇とか別フロアとかが多いように思います。スタッフTシャツが黄色で目立ちましたが、これは非売品だそうです。残念(許可をいただいて撮影してます)。スタッフの方が「こんなにたくさんお花をいっぺんにいただいたのは初めてです」とおっしゃってました。

KADOKAWAメディアファクトリー、大物女性漫画家ご一同様(羽海野チカ、おかざき真里、末次由紀、ひうらさとる、ヤマザキマリ、コンドウアキ、相澤タロウイチ...あっ女性じゃない!敬称略)、久世番子様、アシスタントご一同様、Kiss編集部、Be-Love編集部などたくさんのお花が寄せられていました。やはりキャリアの長さに鑑みると初サイン会というのは遅咲きなのかもしれません。

予約は100名でしたが、少しオーバーして120名くらいまでOKにしたそうです。開場5分前から並んでサインしていただいたので終わりの方がわかりませんが、かなり時間がかかったのだと思います。

松田先生はとてもスリムな美女で、みなさんお一人お一人にていねいに、こころちゃんとお名前を描かれていらっしゃいました。そして、会場ではジョニデ似のイケメンのご主人が見守っておられました。先生のお隣には編集担当の小学館・山内菜緒子さんがスタッフTシャツでイケイケな感じで「責了」ハンコを押されていました。

為書きの提出用紙に名前を書いてお出ししたら、先生が名前だけで「あっ」とおっしゃって下さって、感激というか、それで舞い上がってしまい、もう。ダメですね...。それでもって、サインの写真をあげていいかどうかも聞くのを忘れてしまいました。日付が10.13になってることにすら気付かず、ホント、舞い上がっていてすみません。途中でどなたかがきっとご指摘されたことでしょう...。

多分10年くらい待ったんじゃないかと思います...。お会いできてよかった。これからも応援しています。


『重版出来!』第2集発売記念松田奈緒子先生サイン会

2013年10月14日(月・祝) 14:00~(開場13:30)
三省堂書店 神保町本店 1階特設会場

03/31

2013

重版出来!第1巻/松田奈緒子

重版出来!第1巻繰り返し言ってるが、松田奈緒子さんがデビューの頃からずっと好きだ。どこが好きか、簡単にいうと、まずスピード感、読後感の良さ、そしてナイーブさ。この3本はずっと変わらない。やっぱり最新作でも充分に見せてくれる。

「レタスバーガープリーズ.OK.OK!」では小説家と挿絵画家という、合わせると漫画家のような職業をもつ男女の、芸術家としての産みの苦しみを、「えへん、龍之介」で芥川龍之介という希代の文学者の作品へ向かう姿を描いた。順番は前後するが「少女漫画」という作品をヒットさせ、ドラマ化までさせた。ずっと女性誌のフィールドで活躍していたが、一昨年、少女誌に初めて連載をした。その連載終了後の舞台は初めての青年誌だった。それも小学館の青年誌だ。

デビュー前、木原敏江のもとでアシスタントをしていた作者は小学館の『プチフラワー』誌に持ち込みを続けていたが、デビューすることはできなかった(デビューは集英社)。それでも、その当時のことは漫画家としての糧になっているという。まさに、その小学館への恩返しなのかもしれない。

作者にとっては初めての青年誌連載のため、これまでと絵柄を少し変えている。もともとは繊細な線だが、とても柔らかい線なので、柔軟性が高いところがあったのだろう。そこを見越した編集者の眼力の高さには恐れ入る。が、だからと言って女性誌時代の良さが失われたわけではない。内容的にも変わらぬ繊細さが見られる。

内容的には出版業界を作家から書店までをトータルで描いた仕事漫画で、主人公は心という新人編集者なのだが、実は主役は「本」であって、それを読者に届けるために、どんな人たちがどんな思いでどんなふうに動いているかをすさまじくリアルに描いている。だが、いわゆる"業界お仕事もの"の枠を出て、"仕事とは"という問いを強烈に発している。

漫画編集者を主人公にしているのは、実の妹さんとご主人が編集者という環境も大きな影響を与えているだろう。営業、書店に対しても入念な取材もしているように推察できる。しかし大事なのはその素材をどう扱うかというところだ。

この作品で好きな場面はたくさんあるのだが、自分が一番気に入っているのは小泉くんが仕事の結果が目に見えた瞬間、電車の中で身体が浮かんで行ったシーン。そしてこうなってしまったら、引き返せないという感覚。本当の意味で仕事が自分のものになったとき。これは自分もはっきり覚えている。

小泉くんと違い、自分は新人時代から仕事は好きで一生懸命&長時間やっていたけれど、仕事が終わったら頭を完全に切り換えていた。そういうものだと思っていた。大枠としては先達の引いたレールに乗っていれば仕事を進めることが出来たからだろうと思う。それが完全にゼロからのスタートになって、本当に苦しんだ。誰も何も頼りにできず、自分の頭だけで何日も考えて、答えを見つけた瞬間のことだ。そのときはまさに「寝ても覚めても」という状態だった。これをその後もずっと「仕事が自分のものになった瞬間」と呼んで大切にしてきた。仕事の楽しさを忘れかけたときに思い出すよすがだった。

重版出来!対談さて。松田奈緒子、羽海野チカ、久世番子の対談が『月刊スピリッツ』2013年5月号の付録についている。これも本書を読み解くには必要な一冊だろう。

ここで作者が言った、主人公の心について「自意識の薄い人」という言葉にすごく納得した。オリンピック代表にもなった人「なのに」ではなく「だから」自意識が薄い。低いではない。女性誌は青年誌に比べると心理描写の細密さが要求される。女性の心理の動きはは自分がどう見られるかとどうありたいかの戦いだから、自意識の濃くない主人公は成立しずらいのかもしれない。

それから「気持ちよく泣きたい」「いいところを見せたい、人のいいところを見たい」と思うようになった、とある。でも、作者の作品に登場する人物は、昔から気持ちのいい人物が多いし、いいところを見せてもらってる。だから、やっぱりそんなには変わってないのだと自分は思う。


最後のページに1ページ費やして関係者の名前を出している。今回は作家、編集、営業、書店のみだったが、本は実はもっといろいろな人が動いていて出されるものだ。デザイン、DTP、広告、印刷、製本、取次、流通...。営業と一言で言っているが、印刷会社とのスケジュール調整や紙の調達を行う部門も必ずあるし(制作と呼ばれることが多い)、読者対応・書店対応をしている事務方も別部門になっていることもある。自分のようなウェブ担当もいたりする(社の雑誌や本の発売日に一番神経質なのは自分と直販サイトにデータをあげる担当者だった)。こうやって多くの人がかかわる「本」が主人公のこの作品。いずれ最後の「読者」が登場するような気がしてならない。

書誌事項:小学館 2013.4.3 ISBN978-4-09-185040-9 (ビッグコミックススピリッツ)
初出:「月刊スピリッツ」2012年11月号~2013年4月号

05/15

2012

東北沢5号 第3巻/松田奈緒子

東北沢5号 3子供たちがみな、深い深い傷を追うが、それを癒してまた生きていく場所も、下北沢なのだろう。

最終巻でさまざまなことに一応の決着はつくのだが、これについて、すべてカタがついたとは言い難いものがある。千帆子はきっと周りの人たちに助けながら、強くたくましく生きていくことだろう。さまざまな苦しみから解放されたミチの人生は、やっと解放されてスタートされる。マチルダも立ち直れそうだ。けれど、真夜はともかく、準一について、どうしてもひっかかる。お金でカタをつけて、仕事に復帰では、あんまりだと。彼があまりにも最低なので、本当に救われるのか、できればそこまで描いて欲しかったが、おそらく本筋からすると優先順位が低いのはわかる。

めずらしく最後の読後感が若干悪くて、ミチや千帆子のたくましさ、さわやかさに勝てない、準一の救いようのなさだった。


書誌事項:集英社 2012.4.18 (りぼんマスコットコミックス) ISBN978-4-08-867199-4
初出誌:東北沢5号...「Cookie」2011年10月号~2012年3月号

東北沢5号 第1巻
東北沢5号 第2巻

09/19

2011

東北沢5号 第2巻/松田奈緒子

東北沢5号 第2巻/松田奈緒子下北沢の良さがストレートに伝わって来る作品。不思議な感じのお店のマスター、銭湯、アパート経営のうるさいおばあちゃん。下町の良さと若い人の新しい風とがマッチングした不思議な街だなと思った。あの、独特のごちゃごちゃ感が私ももちろん嫌いではない。

千帆子の無防備さにハラハラさせられるのは、物語の最初からだ。だが千帆子は意外にタフなところもあり、周囲の助けを呼び込めるだけの明るさとあいまって、なんとか乗り切っている。突然やってきた田舎の彼氏も、追い出された部屋も、うまくこなしているが、問題は盾一との関係だ。人が人を求めるのはもちろん欠けているものがあるからなのだけれど、盾一が千帆子を必要としている理由は幼すぎて怖いし、それに応えようという気持ちの千帆子も危なっかしい。夢中になりつつも自分のペースを崩さないうちは大丈夫そうだけれど。

明るくて素直で図太いところもあって、本当に千帆子には救われるが、それでも親に捨てられた子供たち全員を千帆子一人で救えるわけもない。ミチや盾一は「はみだしっ子」たちがそのまま大人になってしまったようで、胸をうつ。

真夜の動きも怪しいし、マサトやマチルダも何かありそうだし、まだまだだ。「レタス・バーガー」以来、久しぶりの長編連載になるのかもしれない予感がある。

■書誌事項:集英社 2011.9.20 (りぼんマスコットコミックス) ISBN978-4-08-867143-7
■初出誌
東北沢5号...「Cookie」2011年4月号~2011年8月号
マサトのうまうまクッキング...描き下ろし

東北沢5号 第1巻
東北沢5号 第3巻

06/14

2011

えへん、龍之介/松田奈緒子

えへん、龍之介/松田奈緒子講談社 2011.6.13 (KCデラックス) ISBN978-4-06-376077-4


私はこの著者のスピード感というか、勢いのある物語展開とそれに合った絵柄が好きなのだが、今回のこの「えへん、龍之介」は驚くほどていねいだ。他の作品を雑だと言っているわけではない。ただ、今回は特別ゆったりと濃密に時間が流れているような気がする。人物も風景も物語も、すべてがていねいで、細やかな印象だ。この作品をじっくりと読ませる力は、作者の強い思い入れなのだろうか?20年も暖めてきてようやく日の目を見た作品だそうだから、引き込まれても当然か。

芥川龍之介と言えば、文壇のエリート、若い頃から作家として嘱望され、古典的で美しい作品を書く、日本を代表する作家の一人。この人物を描きたくて描きたくて、仕方がなかったんだろうと思った。龍之介はエリートであることは間違いないのだが、実は苦労人。女にだまされる間抜けな面や、父親としてのダメな面も、友人として気持ちの良い面や育ちの良い面もある。鴎外もそうだったが、この当時、作家と言う進歩的な職業の人ですら、妻というものは家に嫁ぐもので、自分が娶るものではないという意識があり、そしてその方がおおむねうまくいく。ただ、やはり作家なので、女遊びはどうしてもすることになるのだけれど、そのうまい下手があって、芥川龍之介という人は明らかに下手だったようだ。そして、芥川の問いに「幸せだ」と当然のように答える文がいい。

彼が自分の自負心をくすぐられたり、ちょっとあらたまったりする場面で「えへん」とやっているのだが、これがなんともツンデレっぽくて、彼を魅力的に見せる。

しかし、「東北5号」から少し作品のテンポが変わって来たような印象を受ける。ちょっと慣れないが、悪くないと思う。何より、この時代の作品を描くのに、絵柄は合っている。明治・大正時代の着物姿を当時の空気を感じさせるように描ける作家なんだなぁと感じた。


■初出誌
「BE LOVE」2010年第15号~17号、2011年第4号~7号

03/31

2011

東北沢5号 第1巻/松田奈緒子

東北沢5号 第1巻/松田奈緒子松田奈緒子さんという漫画家は少女漫画家のアシスタントからスタートしているのに、王道の少女漫画ではなく、年代の上の女性漫画誌でデビューしたらしい。普通と逆のコースだ。それなのに彼女の名前を世に知らしめたのが「少女漫画」という作品だった、というアイロニカルな作家だ。「少女漫画」という作品は少女漫画へのオマージュとなっていて、「派遣のオスカル」というタイトルでドラマ化もされている。

そんな作者が何年も暖めていた王道少女漫画誌でのデビューと言える作品。田舎の純朴な女の子が都会に出てきて、いろいろな人にだまされたり、優しくされたり、恋をしたりして成長するglowing upの物語。そしてその舞台が若い地方出身者の憧れの街「下北沢」とくれば、企画書はわかりやすく書けそうだ。だが、若い子を飽きさせずに引っ張るにはキャラクターが重要だとか突っ込みを受ける。なんだか本当に王道の少女漫画だ。

この作品の中に出てくる登場人物では「ミチ」がいい。乱暴に見えて繊細な女性だ。主人公は千帆子だが、ミチの方が生き生きとしているように見えてしまう。「レタスバーガー」の綾がそもそもそんな感じだし、「花吐き乙女」だとハジメがそう。そのミチを主役にした「一週間のミチ」が連載開始前に掲載されていて、本編の前に起こった物語となっている。マサトやマチルダ、盾一など少年たちもこれからおもしろくなりそうなキャラクターをそろえている。

大手英会話学校の倒産が相次いだことを踏まえた専門学校の倒産やtwitterで「倒産なう」という場面や、男のところを泊まり歩く家出少女等、現代風俗をふんだんに取り入れているが、その辺は年代を経ると疲弊してしまう可能性があり、だからこそ少女向けの漫画作品は後の世代に受け継がれにくいところがある。作家はそんなことは百も承知で、チャレンジしているのだろう。

描き方がいつもよりゆっくりとていねいなのは少女向けだからだろう。独特のスピード感が好きなのだが、これはこれで、いい。

■書誌事項:集英社 2011.3.20 (りぼんマスコットコミックス) ISBN978-4--08-867114-7
■初出誌
東北沢5号...「Cookie」2010年11月号~2011年2月号
一週間のミチ...「Cookie」2010年9月号

東北沢5号 第2巻
東北沢5号 第3巻