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2013

ひきだしにテラリウム/九井諒子

ひきだしにテラリウムamazonというかイーストプレスのwebマガジン「Matogrosso」(→このリンクはamazonを経由せずに直接見ることが出来ます。やり方はこちら。)などで連載されたショートショートの連作集。8ページ程度の小さな作品が33篇もつまっている。この人の頭の中にはすごくたくさんのアイディアがつまっているのだろうなと思ってしまう。無理矢理ひねり出しているようにはとても思えない。全部おもしろいが、特に気に入ったものをピックアップ。

「すれ違わない」
この鼻にプスっとさされているのはどんな材質なのだろう?とすごく気になった。"昔の少女マンガ風"の絵が、とてもよく雰囲気をつかんでいる。そして「資料不足」2件に爆笑。

「かわいそうな動物園」
この動物園ではどうして生まれた動物を殺さなくてはならないのか、最初はわからないが、鳥の視点を描いたところで、「あっ」と気付き、最後に落ちてきた葉っぱで、この動物園がどんなものなのかがわかる仕組み。「オリーブの葉」ではっきりわかるんだけど、わかる人ばかりではないかもしれない。

「パラドックス殺人事件」
役になりきり過ぎた俳優が、作中人物の苛酷な運命に嫌気がさし、その作品を創り出す神=脚本家を殺す。しかし神である脚本家が死んでしまうと、その劇中世界がなくなり、犯行動機にパラドックスが発生する、というお話。これを読んでサルバトール・プラセンシアの「紙の民」を思い出した。作中人物がいつも自分たちを見張っている土星に抗して戦うが、土星とはすなわち作者だったという話。

「未来面接」
地球のために敵と戦う人型ロボットに搭乗するパイロットを選ぶのは普通に面接でした。ところで何故中学2年生なのか、ガンダムとかエヴァとか詳しくないのでわからないが、きっと理由があるのだろう。この作品はあの辺のアニメ詳しくないと、味わいが違うのだろう。

「代理裁判」
相手の反応について、これはどうなんだろうと考えることは日常的にもよくあることだ。それを裁判の形式にしたお話。最初の裁判はよかったんだけど、後の方の裁判はイタイ。自分で冷静になっているつもり(検察側)でも甘甘の弁護士になっていることは、よくある...かも。

「スットコ訪問記」
これは絵柄が二種類に分かれている。漫画家目線の部分はいかにもエッセイ漫画風の絵柄だが、地元の少年の目線ではきちんとした絵柄になっている。旅行者が写真を撮っている意味が彼にとって「笑われている、バカにしている」という意味だったのが「大切に思っている」意味だとわかっていく流れがいい。スケッチできる才能が羨ましい。

「春陽」
これはお気に入りの一つ。ペットとしてこびとがいるなんて。猫などペットと同じ感じなので、なじみがあり、ほのぼのとさせられる(そこを逆手に取って次につなげるのだけど)。ショートショートなんで無理だが、中編くらいで、このパターンで「子供がいたら」を描いてくれると、更に面白いかもしれない。次の「秋月」とシンメトリーというか裏表になっている。

「秋月」
安全に安楽に囲われている女性と"自由"を唱える男と、女性を管理・世話する機械。まさしく女性=こびと、男=野良猫、機械=飼い主を描いて「春陽」と裏表。ペットへの我々の愛はこの機械のようなものなのかもしれないと一瞬思わせてゾっとするが、ちゃんと希望をもたせて終わる。本格SFというか古典的なSFマンガっぽい絵柄を意図的に採用している。

「パーフェクトコミュニケーション」
音ゲーとコミュニケーションは確かに「条件反射」の部分があって、それをベースにしないとパニックを起こしてうまくいかない点が似ている。パニックを起こしていろいろ考えても、結局は「かわいい」(ポーン)で飛んでしまうところがいい。
コミュニケーションに難のある人にソーシャルスキルを教える本に出てきそうなお話。「狼は嘘をつかない」でも実用本のパロディ化が使われていたが、この作品にも似たものを感じる。

「ショートショートの主人公」
本書の中でも最も秀逸な作品の一つ。漫画のジャンルを上手にパロディにしている。確かに、人は誰しも主人公ではあるが、それは何の主人公かということがポイントで、「自分の物語の主人公」のはず。たまたま漫画的な両親だったからおかしなことに......?「ショートショート」というジャンルについて研究した作者にとっては最後の一言が本音だろう。

「神のみぞ知る」
とても残酷な日本昔話かと思ったら、とても暖かな日本昔話だった。うまい。

「すごい飯」
食生活が貧しく、食に無知なこの友人の方が、逆に幸せなんだろうと思わせるオチ。グルメ漫画へのアンチテーゼか。それにしても、彼の「食べたもの」の表現が何とも言えず、全然おいしそうではない。けれど、彼自身は実は味オンチではなく、想像力も感受性も豊かな人なのだろう。意外にいろいろと教えれば育つような気がするが、知ってしまったらもうあの味は失われてしまうのだろう。

「ひきだし」
ひきだしの中にテラリウムでつくった世界があった...という表題作。かなり大がかりにできる設定なのに、すごくあっさりと落としているところがいい。

「こんな山奥に」
主役のカップルを除き、お店の店員やお客さんたち、全員キツネだろうと思うのだが、違うかな?

「未来人」
最初に登場したアイテムが再び登場して、大縁談!爽快な気分で読み終えたところに、再びの「資料不足」で笑わせてくれる。さすが。


絵柄を作風に合わせて意図的に変えている、というのはマンガを一つの道具というか材料として扱っているメタ漫画的な面もあり、漫画表現に対する遊び心も満載だ。なんという才能だろう。友人たちにも読んでもらって、これがよかった、あれが面白かったと語り合いたいと思わせる、非常に珍しい作品だった。


イースト・プレス 2013年3月27日 ISBN978-4-344-02273-7

【特集】ひきだしにテラリウム カバー/見返しイラストのエピソードMAP(良いコミック)

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2012

竜のかわいい七つの子/九井諒子

竜のかわいい七つの子/九井諒子エンターブレイン 2012.10.26 (ビームコミックス)

空想の生物たちと人間のふれあいを描いた作品集。

この作品集に登場するのは竜、人魚、魚の姿をした神様、屏風の虎や獅子や竜、狼男、超能力者。最後だけ人間だが、少し普通とは違う人間なので良いとしよう。マンガにはよく取り上げられるファンタジックな動物たちが、ちょっとこれまでの路線と異なった角度から、描かれている。

「竜の小塔」
竜が登場する物語の舞台は中国か、あるいは中世ヨーロッパのような雰囲気がよく似合う。これは中世のような時代を舞台に、山の国と海の国で敵対しているちょうどその真ん中に竜が巣をつくり、タマゴを産んでしまったことから起こる顛末を描いている。
前作にもよく出てきた雰囲気のファンタジーだが、竜の子が頑張ってる姿がいとおしい。

「人魚禁漁区」
漫画に登場する人魚もいろいろと読んだ。やっぱり印象的なのが高橋留美子の「人魚」シリーズ。これは人魚じたいが主役なわけではないのだけど。それから小玉ユキの「光の海」も好きだった。小玉ユキの人魚も言葉はわかるけれど、やっぱり「動物」という設定だったと思う。人魚というからには美しいのでどうしても男の子は魅せられてしまうわけですが。この作品は過剰な動物愛護と人間の生きるということの狭間というところで苦しんでいる少年は何に向かわせたのかという流れが素晴らしい。コミュニケーションが出来ないわけではないが困難であるという人魚と人間がともに生きる方策を考えているが、単純に人間と動物の関係性を憂えているというわけではなさそうだ。

「わたしのかみさま」
魚の形をした神様と小学生の女の子のお話。この女の子のように「○○しないと...××になるよ」と否定形で育てられた子には彼女の恐怖心がわかると思う。「○○しないと...」の後がなかったら、じゃあ自分はどうなるんだ?という不安。
ところで、この集合住宅の家は何だ?
...話は違うが、この子のお父さんはなかなかいい。

「狼は嘘をつかない」
架空の病気「狼男症候群」に悩む大学生の男の子とその母親のお話。この作品の背景を説明するために最初に導入された、育児エッセイ風の8ページの漫画が最高に面白かった。これだけで終わりでもよかったほど。よく、こんなのをパロディにしたなぁと思う。難病、障害をもつお子さん向けの育児漫画っぽい。保護者の交流会が開かれるとか、薬の副作用のあたりが、特にそう感じさせる。
本編に入り、あのかわいらしい梅谷けー太くんがとても母親に対して失礼な態度をとっているのにムっとする。ここがまぁ、作者のうまいところでもあるのだ。狼男になっている間の様子が、言い換えると統合失調症でパニック起こしている状態の人や二重人格の人と同じような印象だ。そんなお話をこれだけおもしろ楽しく仕上げられるとは、すごい力だなと思う。

「金なし白祿」
両目を描くと命が吹き込まれて絵から飛び出してしまうので、必ず片目しか描き入れなかった日本画家が詐欺にあったために、やむを得ず両目を入れようとするが...。
虎や獅子や馬なども出てくるが、これも竜の鱗がここでもキーワード。
墨で書いた日本画から漫画の中に生きた人物として登場させるのは、明らかに描き分けないとならないので、たいへんだったろうと思うが、その違いはよくわかる。ほろりとさせる物語。

「子がかわいいと竜は鳴く」
皇帝が重い病気にかかり、それを治すための竜の鱗をとりに皇帝の息子がやって来る。村にいた一人の女性が道案内を申し出て皇帝の息子らに同行するた...。
この作品は試し読みがある。再び竜が登場。今度の竜は、なかなかにクールな面を見せてくれる。

「犬谷家の人々」
全員が超能力を持つ一族に生まれた双子の女の子。双子の姉は次元を操る能力、父はテレパス、母はサイコキネシスト。双子の妹は、「着ているものをパジャマに変える」という、いったい何の役に立つのかわからない能力だった。能力が開発されたお祝いに一族が集まるが...。
特殊な能力をもつ一族の中で能力が低いとコンプレックスを抱く子を見ているとブラッドベリの、というよりは萩尾望都の「集会」という作品を思い出した。

前作に比べて、竜以外の作品を扱っているだけあって幅が広がって来たように感じる。ものすごく絵が上手というわけではないのに、何故かコミナタにカバー制作のレポートが記事になっているあたりが、興味深い。でも素敵なカバーだと思う。

九井諒子「九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子」カバー制作過程を密着レポート(コミックナタリー)


■初出誌
「竜の小塔」......Fellows! 2011-AUGUST volume 18
「人魚禁漁区」......2011年5月 個人誌にて発行
「わたしのかみさま」......Fellows!(Q) 2011 AUTUMN ...Quiet
「狼は嘘をつかない」......Fellows! 2012-JUNE volume 23
「金なし白祿」......2011年10月 個人誌にて発行
「子がかわいいと竜は鳴く」......描き下ろし
「犬谷家の人々」......Fellows!(Q) 2012-AUTUMN ...Q.E.D.