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2010年6月24日

絆と権力―ガルシア=マルケスとカストロ

絆と権力ガルシア=マルケスとキューバの指導者フィデル・カストロの関係については、断片的な情報しか知らなかった。たとえばガボはバルガス=リョサと昔は親交があったがキューバに対する姿勢の違いから決別したとか、レイナルド・アレナスのガボに対する手厳しい批判とか、間接的な情報しかなかった。ガボがカストロとの親交が深く、度々キューバについて発言していることは知っていても、実際にはどのような内容なのだろう?と思っていた。本書は長い間の二人の関係をそのきっかけから様々な事件を通じて綿密に教えてくれている。

もともとカストロという人物、キューバという国が簡単にはくくれない複雑なところがある。独裁国で反米国で経済的困窮に陥っている。出て行く人は何十万という規模でいるが、「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」で見る限りハバナでは明るく楽しく暮らしている人々もいる。医療先進国で、マラドーナはフィデルのおかげで生き返った。反米姿勢からか野球が強い、等々。国際社会から批判を浴びるフィデル・カストロを庇い続けるガルシア=マルケスもなかなかに謎の人物だったが、本書はかなり多くを解明してくれた。

最大の謎である「ガボはなぜカストロに忠実なのか?」という問いに、いろいろ言うが結局は「彼が権力者を愛しているからだ」という回答が出ている。作家として独裁者を頻繁に題材に取り上げて研究しているのだから、それはそうだろう。ガボの場合、権力に魅入られ、それを行使することに夢中になっているのではなく、権力者の生態そのものに深い関心があるという書き方ではある。もちろん、友人や知人の亡命や救命の口利きをするところなどで権力を行使することに酔っているような面もあるだろうが、自ら公式なポジションを受け入れることはない。大統領に立候補したバルガス=リョサや外交官だったネルーダらとは違う。しかし、そのフィクサー的な役回りを楽しんでいるところはよくわかった。

ガボがパディージャ事件やアンゴラ出兵、オチョア事件や記憶に新しいエリアンくん事件など、その都度言うべきときに沈黙し、言わなくても良いときにキューバに都合の良い物語を吹聴し、親友を銃殺されたときも黙り込み、キューバの作家たちがどのように自由を奪われ迫害されても、ひたすらカストロを心棒する様子が面々とかかれている。読んでいるうちにガボの欺瞞と身勝手さ、非人道さに胸くそが悪くなる思いを何度もした。だが、いわゆる「保身」からではなく、心から「カストロが好きだし、カストロに好かれている僕が好き」というところが見え隠れするとこが本当に妙だ。

ガボに作家としての良心や欲はあるが、個人としての良心はない。芸術家と言ってしまえばそれまでだが、真正面から政治にオミットせざるを得ないラテンアメリカの芸術家としては希有な存在だろう。それだけ高見にいるということなのだろうか。それにしても自分の影響力を十分理解した上での行動なので、現存作家としてもこれだけの批判を浴びながら、「でも売れてるからいいじゃん」とでも思っているのか?の言動は、リョサやアレナスでなくても許し難いものがある。

後はもう自伝が2~3冊出るだけで、新作が出るわけではなさそうだからよいのだが、本書のおかげで、これまで通りに無邪気にガルシア=マルケスを読めなくなってしまったことは確かだ。もちろん、それを恨むつもりはない。とても興味深いノンフィクションを刊行してくれて感謝しているし、たぶん今後もガボの作品はやはり読むだろうと思う。

■著者:アンヘル・エステバン,ステファニー・パニチェリ著著,野谷文昭訳
■書誌事項:新潮社 2010.4.30 ISBN978-4-10-506161-6
■原題:Gabo y Fidel El Paisaje de una Amistad, 2004