イグアナの娘
初出誌「プチフラワー」1991年11月号(50p)
小学館 1994.7 500円 ISBN4-09-172032-3(プチフラワーコミックス32)
小学館文庫 2000.12.10 514円 ISBN4-09-191381-4
小学館 2008.3.2 1680円 ISBN978-4-131224-2
- 【登場人物】
| 青島リカ | イグアナなのに人間として生まれてしまった女の子。 |
| 青島マミ | リカの妹。人間。 |
| 青島ゆりこ | リカの母親。人間。 |
| 安田静男 | リカの初めてのボーイフレンド。羊。 |
| 牛山一彦 | リカの恋人。牛。 |
- 【内容】
- 生まれて来た赤ちゃんはとてもかわいい女の子だった。ところが母親にはなぜかイグアナに見える。妹は人間として生まれたと思った母親は妹ばかりをかわいがる。母親の愛が欲しいと思ったリカだったが、いつしかそれを諦め、いつの日かガラパゴス諸島へ行って本当の母親を捜そうと決意する…。
- 【コメント】
- 萩尾先生の数多い傑作短篇の中でも、この作品は出色です。もちろん、最高傑作は「半神」か、もしくは「柳の木」なのでしょうけれど、一般的に受け入れられやすい作り方をしており、もっともメジャーな作品と言っても良いのかもしれません。事実テレビドラマ化もしているのですから、知らない人に萩尾先生の作品を貸してと言われたら、まずはこの作品から入ります。受け入れられやすく作っているけれども、内容は深い作品です。多少なりとも感受性の豊かな人に読ませると、「怖い」と言われました。わかります。こんな愛らしいイグアナの絵ですが、奥の深さに怖くなってしまうほどです。
- 萩尾先生の作品の中で頻繁に出てくる親子の確執ですが、母親と娘の確執をここまで真っ正面から描いたのは初めてだと思います。萩尾先生とお母さんの確執については頻繁に先生のインタビューに出てくるのですが、「マンガを描きたい」「そんなことはやめてお嫁に行きなさい」というやりとりが先生が漫画家として大成されてからも繰り返され、一時期は本当に悩んだそうです。実際に断絶状態の時期もあり、授賞式やパーティなどにも一切呼ばれなかったとか。この作品の中の鏡のエピソード(誕生日に鏡を買ってお母さんにあげたら無駄遣いをして、と怒られて受け取ってもらえなかった)は実際に萩尾先生の体験されたことだそうです。
- 萩尾先生の世代の女性は仕事をする女性のパイオニアなので、その前の世代の価値観とは真っ向から対立し、著名な女性は必ずと言って良いほど対決しているのですが、萩尾先生ほど激しい人も少ないでしょう。それだけお母様が「聞く耳もたない」のだったとは思うのですが、萩尾先生自身がいつも適当に聞き流すということをせず、がっぷり四つになっているように、下の世代の私からは見えるのです。
- 女性にとってはファザコンよりもマザコンの方が抜け出すのは難しいと私が気付いたのは高校生のときでした。自分と母親の関係は良好でしたが、周囲に必ずと言って良いほど母親との間に問題を抱えている女の子がいるのです。間違いなく、高圧的で娘の言葉に耳を傾けないタイプのお母さんたちでした。娘の方は反抗はするものの、ストレートに言いたいことが言えないようでした。愛されたいと思う部分が残されているのでしょうか。でもあまりに圧力が強くて、言いなりにはなれず、回りくどい反抗をやらかしては叱られるの繰り返しでした。どうやら娘というのものは父親への反抗はストレートに出来るようでしたが、母親となると簡単に行かないようです。その点については「母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き」「母は娘の人生を支配する」等多数の書籍が書かれています。その後私自身が成長するにつれわかってきたのは、こういうケースは確実に母親の方が問題を抱えています。
- ところで、このイグアナのリカは「モトちゃん」以来の久しぶりのキャラクターです。小さいイグアナはペットショップなどで比較的簡単に見ることができるようになりましたが、本当に何か思慮深い顔をしています。こんな難しいは虫類をが、こんな愛くるしいキャラクターになるとは、と驚きます。イグアナは「オオカミと三匹の子ブタ」で初めて萩尾作品に登場します。
- よしながふみの「愛すべき娘たち」はこの作品を契機に描かれたものだそうです(典拠)。母娘の問題を扱った著書を多く出している信田さよ子氏との対談(注)や様々なところで萩尾先生と母娘問題は結びつけられて語られています。
- しかしながら、長い年月を経て、萩尾先生とお母様の関係はずいぶんと変化されているようです。(「文藝別冊 萩尾望都」)。この「イグアナの娘」の母娘と同じように、萩尾先生はお母様そっくりでした。
- 【備考】
- テレビドラマについて
2010.8.11