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マージナル

初出誌「プチフラワー」

プロローグ ホウリ・マザ48p1985年8月号
第1話 迷い子45p1985年9月号
第2話 アシジンの岩屋49p1985年10月号
第3話 二九九九-現在48p1985年11月号
第4話 漆黒の森41p1985年12月号
第5話 図書の家の夜鳴鳥49p1986年2月号
第6話 花石榴の村40p1986年3月号
第7話 双頭40p1986年4月号
第8話 レクイエム39p1986年5月号
第9話 イワンの研究について38p1986年6月号
第10話 死霊38p1986年7月号
第11話 受胎告知48p1986年8月号
第12話 夢の子供 No.15138p1986年9月号
第13話 ヘビじじいとヘビ男42p1986年11月号
第14話 星と炎39p1986年12月号
第15話 狩人38p1987年1月号
第16話 えもの38p1987年2月号
第17話 アシジンとマルグレーヴ40p1987年3月号
第18話 最後の晩餐44p1987年5月号
第19話 ハレルヤ40p1987年6月号
第20話 暗示40p1987年7月号
第21話 洪水46p1987年8月号
第22話 境界の果て49p1987年9月号
エピローグ ホウリ・ナイト41p1987年10月号

マージナル 第1巻(プチコミックス41)

小学館 1986.7.20 480円 ISBN4-09-178041-5

マージナル 第2巻(プチコミックス42)

小学館 1987.2.20 480円 ISBN4-09-178042-3

マージナル 第3巻(プチコミックス43)

小学館 1987.4.20 480円 ISBN4-09-178043-1

マージナル 第4巻(プチコミックス44)

小学館 1987.10.20 480円 ISBN4-09-178044-X

マージナル 第5巻(プチコミックス45)

小学館 1987.11.20 480円 ISBN4-09-178045-8

マージナル 第1巻

小学館(小学館叢書) 1994.2.20 ISBN4-09-197192-X 1200円

マージナル 第2巻

小学館(小学館叢書) 1994.3.20 ISBN4-09-197193-8 1200円

マージナル 第3巻

小学館(小学館叢書) 1994.4.20 ISBN4-09-197194-6 1200円

マージナル 第1巻

小学館文庫(新版) 1999.8.10 620円 ISBN4-09-191254-0

マージナル 第2巻

小学館文庫(新版) 1999.8.10 600円 ISBN4-09-191255-9

マージナル 第3巻

小学館文庫(新版) 1999.9.10 610円 ISBN4-09-191255-6

【登場人物】
キライワンの作った子供
グリンジャホウリ・マザを暗殺した男
アシジン村を離れ一人で岩屋に住む。子供の頃死にかけてセンターに運ばれ、帰って来た。
ホウリ・マザ地球上のただ一人の女性。すべての者の母。
メイナードセンターの長官。マルグレーブとも呼ばれる。
市長都市(シティ)のトップ。
ミカル市長の息子
ハバトグリンジャの同村の者。
チト7代目のホウリ・マザになるはずだったが、グリンジャに殺された少年。
イワン・アレクサンドル生物学者。
アーリン・アレクサンドル生物学者。イワンのパートナーでキラの母親。
スズキ・ゴー生物学者。
エメラダ図書の家の人間。7代目のホウリ・マザ。
エドモス図書の家の人間。エメラダの念者。
ネズ市長の秘書。
ガルダ・オクターブカンパニーの株主。
アド・オクターブオクターブ家の人間でカンパニーの株主。
フィズ女史カンパニーの株主。
ナースタース・オクターブカンパニーの株主であるオクターブ家の一員。
マルコセンターの人間だが、メイナードと対立している。
ローニミカルの学友。
センザイ・マスターゴビ砂漠から来たエスパー。
パルミッサ月から来た科学者。
テルミッサ月から来た科学者。
【内容】
2999年、地球(マージナル)の環境は劣悪化していたため、人間は月に避難していた。地球は汚染され、人々はD因子に感染して受胎能力がなくなっており、子供が生まれない世界になっていた。そこでカンパニーは月の市民から卵子を募り、それを地球に輸送し、センターの無菌の地下で受精させる。精子はすでに病気に対する抗体をもつマージナルの市民のもの。この抗体はY遺伝子のみにつくため、男しか生まれてこない。人工子宮で育った子供はナンバーをつけられて父親の元に送り返される。これはカンパニーが遺伝子と文化の相互作用によって起こる進化の奇跡を求めて、地球規模で行われた壮大な実験だった。
この地球のプロジェクトを任されているのがマルグレーブ、メイナードだ。マージナルの住民はカンパニーの存在は一切知らされておらず、ホウリ・マザが受胎して子供を産むということだけ告知されていた。ホウリ・マザが実際に子供を産むわけではないが、宗教が必要だったのだ。元は男のマージナルの住民から新しいマザを選定し、女性に見えるよう手術をするのだ。そうして都市(シティ)へは子供をもらいに村々から人が集まってくる。ところが、近年子供が生まれないため人口が減っており、人々は不安に感じていた。
ホウリ・マザは三年に一度聖堂のバルコニーに姿を見せる。その時、グリンジャらが暗殺を実行した。市長はその場で「ホウリ・マザは新しい肉体をもってよみがえる」と市民たちに語った。グリンジャはシティから逃げる途中、子供を拾う。市場でその子をアシジンという男に売るが、どさくさに紛れてヒゲの暴走族に子供がさらわれてしまった。アシジンとグリンジャは子供を取り戻しに行く。取り戻しに行った混乱のさなか、それまで一言も発しなかった子供が「キラ」と叫んだので、アシジンらは「キラ」と呼ぶことにした。アシジンはキラを連れて岩屋に戻ったが、キラが毒蜘蛛にかまれたため、グリンジャに助けてもらうことにし、岩屋に招待する。二人の必死の看護のおかげでキラは助かった。彼らが岩屋でキラの回復を待ちながら過ごしていると、アシジンの村の者が氷を切りにやって来る。皆で氷切り場に行くと、キラにそっくりの子供が凍りづけにされている。半分はやけどを負っていた。
アシジンの村では長が予兆を見たため、2年以上前からある計画を立てていた。市長と市長の息子、長官を暗殺するという計画だ。グリンジャがキラを抱いたことが原因でアシジンが怒り、グリンジャは目をつぶされ、砂漠に連れて行かれる。アシジンはキラを連れ、グリンジャを追ってシティに行くが、キラは一人でグリンジャを探しにシティに向かった。
一方、シティではメイナードらが新しいマザの選定をしている。ミカルは父の市長の命で図書の家を訪れる。そこは多くの古文書を所蔵している場所で、ミカルは500年か1000年前にはマンと同数のウーマンがいて、子供を産んでいたと図書の家のエメラダに教わる。彼の帰宅後、エメラダがセンターの者に連れ去られる。新しいマザに選ばれたのだ。エメラダの念者で、図書の家のエドモンは怒り狂う。
その頃、メイナードは密入国者が捕まったという連絡を受ける。スズキ・ゴーという生物学者で、地球に密入国したアレクサンドル夫妻を捜しにやって来た。彼らはカンパニーに追われて地球に隠れて子供を作り出す遺伝子操作の実験を行っていた。それは「夢の子供」を作るという実験だった。イワンは自分が子供時代に父と母の事件で苦しんだことがもとで「無限に幸福で誰とでも共感性をもつ子供。苦しみのない魂をもつ子供」を作ろうとアーリンとともに地球に密入国して実験をしていた。結果、4人のキラという子供が生まれたが、母親のアーリンがゴーに助けを求めたのだ。ところが、カンパニーがメイナードに黙って森を焼き、イワンとアーリンと子供たちを殺した。しかし、1人だけ生き残った、それがキラだ。
キラはシティに行くという男二人と行動をともにしたが、だまされたことがわかり、一人を殺害する。その現場にセンターのヘリが居合わせ、キラをセンターに連れて行く。調べると、キラは受胎していたらしい。それはグリンジャに抱かれて、身体が変化したときのことだ。あるいはその翌日、嫉妬に狂ってグリンジャを追い出したアシジンのせいかもしれなかった。
センターが調べている途中、キラが逃げ出した。メイナードはイワンとアーリンの名前を出してキラを連れて行こうとするが、キラの言葉は「アーリンとエゼキェラでキラを作った」というものだった。その瞬間、キラはテレポートして図書の家に現れる。キラは超能力者だったのだ。
メイナードはカンパニーの株主との立体映像による対談を開催、そこにゴー博士を同席させる。イワンの実験についてカンパニーの株主らは違法だったと語る。「エゼキェラ因子」とはモロッコの近くのエゼキェラという孤立した村で百年ごとに狂乱した集団自殺を引き起こす宗教があった。村の半数は進行性の視覚障害があり、弱い感能力があった。時々出現する強い感能力をもつシャーマンが周囲の人間に完納してレミングのような集団自殺行動をとらせるという記録があった。よって、エゼキェラ因子を使用した遺伝子実験を行うこと、エゼキェラ因子の保持者の出産、エゼキェラ因子保持者で殺人・自殺・社会不安を引き起こした者の生存、それらはすべて禁止された。
エゼキェラ因子の保持者は三千万分の一しかいないが、メイナードが保持者だったのだ。メイナードはイワンと同じ大学に同じ時期に所属し、大学で手術を受けたときにイワンは助手をしていた。そのとき、イワンはメイナードの血液を採取し、そこからエゼキェラ因子を取得した。カンパニーがメイナードに黙って森を焼いたのは、メイナードがイワンを使って子供を作らせようとしていたかと疑ったためだった。アーリンがゴー博士に救助を求めたシグナルをカンパニーがキャッチしていた。アーリンを救助し保護し、証言を得て森を焼いたのだった。子供が生まれて16年、最初はよかった感能力のある子供たちとの生活でイワンは狂い、アーリンも狂いかけた。
アシジンはメイナードや市長の殺害を計画している村人らとともに都市に来た。センターにエメラダをさらわれたエドモスは情報と交換にアシジンらと協力し、センターにもぐりこもうとする。ゴー博士はメイナードと対立するマルコの助けを借りてセンターを逃げ出し、図書の家に行く。そこでキラと会い、ちょうどアシジンとも会い、エドモスの助けを借りる。
メイナードはゴビ砂漠からセンザイ・マスターというエスパーを呼び寄せる。図書の家にいるキラをつかまえようとしたが、グリンジャとアシジンが鉢合わせする。誤ってアシジンをとらえてセンターに連れて来てしまった。アシジンは子供の頃センターで会ったメイナードのことを覚えていた。
グリンジャはキラに森で起きたことを語らせた。キラたちはイワンの夢の子供だったはずだが、アーリンが出て行った後、イワンは何も食べなくなり、キラたちは自分たちは役に立たないと感じた。そしてカンパニーが森を焼きに来ることを予知し、イワンに毒をもって殺したと。
キラたちはイワンの死の夢にとりついて一つの世界は終わった。イワンの死でともに死ぬはずだったキラの一人が生き延び、グリンジャとアシジンがキラの夢をコントロールしている。アシジンは前向きだが、グリンジャは世界がいつか終わるという考えをもっている。ゴー博士はグリンジャの夢を前向きなものに変えようと語りかける。そうしなければ、キラは再び世界を滅ぼそうとするだろう。
キラはアシジンを取り戻そうとする村の連中に連れられる。アシジンはセンザイマスターに暗示にかけられ、シティに戻され、キラやグリンジャと再び会う。アシジンは計画にキラの能力を使いたいと言われる。都市は200以上の塔があるが、その塔の下には水場があり、すべての水場をつなぐ地下道が幾層にもある。この水の流れが電気を生み出している。流れの源にある主要な塔が七つ、これが聖堂を取り巻いて立っている。七つの水場を同時に破壊すれば、センターと聖堂は水の中で孤立する。修理するまでに一日はかかり、その時間を利用し、長官と市長を殺害する計画だ。キラに暗示をかけ、そのキーワードで七カ所の塔を爆破することができる。
都市ではミカルの市長就任式が行われる。ハレルヤという新しいマザの誕生だ。新しいマザは人々を魅了したが…。
【コメント】
子供が生まれない。その世界では真綿で首を絞めるような閉塞感があり、自殺者が相次ぎ村々でさまざまに憶測が流れます。その中では古いマザを暗殺しようとする後ろ向きなグリンジャと、長官らを暗殺しようとする前向きなアシジン(の村の人々)がいます。この前向きと後ろ向きの指向性が、二人の表情に現れているところに絵の力を感じます。
死に場所を求めてやってきた聖者(乞食)たちの夢をグリンジャが引き受け、それをキラが受け止めます。その「死」への思いが増幅し、流れ出た水のパワーを増幅させ、コントロール不能になります。キラの望みは何でしょう?ゴー博士が「破滅以外の夢を見て欲しい」とキラに地球を託します。
そしてキラは病んだ地球の夢「青い海」と同化し、キラ自身は失われてしまうのですが、地球を再生することになります。この一人の人間が惑星を再生させる、というお話は「スター・レッド」のエルグのようです。
センターは氷室に残ったキラを運び出し、やけどを修復、アシジンとグリンジャの元に戻します。なぜキラはアシジンとグリンジャと一緒なら力を爆発させないですむのでしょう?それを調べるためなのですが、ただの刷り込みなのかどうか。3人ならバランスがとれるということなのか。いずれにせよ、とても美しいラストシーンです。萩尾先生の長編のラストは、いつもこんなふうに心穏やかにさせてくれるものです。
このお話で印象的なのは、なぜメイナードはナースタースを拒絶したのか、というところです。おそらくは自分にあるエゼキェラ因子がもととなっている知覚障害や進行性の遺伝子病が原因なのでしょう。また、薬剤が埋められ、女性ホルモンを注入して片側の胸だけがふくらんでいる不完全な肉体のことも原因でしょう。アシジンの肉体を美しいと何度も思い返しているところからも、それがわかります(あと22年で死ぬことは知らなかったようですが)。それにしても「愛のほかはぜんぶやる」なんて言っておきながら、最後にナースタースの名を呼ぶなんて、なんというツンデレ。ナースタースのツンデレぶりも理解できるというものです。
「マージナル」はメディアミックスされています。ラジオドラマになり、CDが発売されています(サウンドドラマ「マージナル」)。また、このドラマ用のサウンドトラックやイメージアルバムも出ています。
さらに、「狩人は眠らない」という画集があります。これは、マージナルの頃の絵が中心の画集で、非常に美しい水彩画が多く収録されています。萩尾先生の砂漠が舞台のSFはここで頂点を極めます。その古代アラブのようなファッションとナースタースらの新しいファッションが「マージナル」というSF作品に結実しています。この非常に充実した長編SFは1985年から87年の2年以上を費やして連載されました。この頃、「4/4カトルカース」「X+Y」などの短・中編SFも多数発表されています。その後はバレエシリーズに突入します。たいへん充実した時期でした。
2010.7.14