きみは美しい瞳
初出誌「ASUKA」1985年8月号(創刊号)(40p)
モザイク・ラセン(秋田文庫)
秋田書店 1998.12.10 562円 ISBN4-253-17252-0
小学館文庫 2003.9.10 562円 ISBN4-09-191385-7
- 【内容】
- メールデールとハプトは学友だったが、ハプトは国に帰って領土を継ぎ、メールデールは僧院に残り聖職者になる勉強を続けている。2年ぶりにメールデールが国に帰るとハプトは婚約者のリア姫を紹介する。が、ハプトはリア姫に冷たくあたるため、リア姫は怒って帰ってしまう。
- ハプトはメールデールに万華鏡のような瞳をした人間によく似た鳥を見せる。それは辺境に住み、夢で人間の深層を見せる「夢鳥」であった。
- しつけと称して夢鳥をむち打つというハプトに「退屈しのぎに小さいものをいじめている」と非難するメールデール。二人の言い争いにおびえた夢鳥がメールデールを打つが彼自身が鳥をかばう。「自分自身ですら自分をもてあます」というハプト。メールデールはハプトから夢鳥を譲り受ける。
- ハプトが夢鳥によって見させられた夢は裸の美女に囲まれているわいざつな夢などではなく、本当はメールデールに接吻を繰り返す美しい夢である。
- メールデールは密輸入されてきた夢鳥を故郷の星に帰そうとする。夢鳥は旅の途中ですっかりメールデールに慣れる。しかし、ある晩夢鳥がメールデールに見せた夢は恐ろしい汚濁の沼に沈んでいく夢だった。苦しさの余り目が覚めると、メールデールは夢鳥を絞め殺してしまっていた。
- メールデールはその異臭の満ちた汚い沼が自分の心の中にあると思い込み苦しむ。僧院に帰った後、ハプトの元にメールデールから切り落とされた彼の耳が送られて来る。急いで僧院に連絡を取ると、先生が出て、メールデールが己を責めて自分で切り落としたという。ハプトはメールデールの治療のために冷凍保存している鳥の死体を持って来るようにと言われる。次は目をつぶしかねないと。
- メールデールは自分が汚れていると責め、ハプトは耳を切ったのだからもう汚れていないと説得する。だががメールデールは次は目が、手が汚れていると言う。胸を、頭を切り落とせば清らかな自分に戻れるのかと言うハプトに「自分が醜いことを見せつけて苦しめている」と答えるメールデール。心を込め、必死で説得するハプトだが、メールデールの苦しみは止まらない。
- 医者は彼がこれ異常自分の実を切り刻むのを防ぐため、鳥の目を移植しようという。鳥を殺したことを認めたくなくて苦しんでいるため、目を移植することによってそれを認め、鳥と共に生きることを選ぶだろうと。
- メールデールの目には光と影ときらめきときらめきをうつす闇が映っている。
- 【コメント】
- 粗暴でイヤな人間であるハプトの見る夢が美しい夢で、聖職者になろうとしている優しいメールデールの見る夢が嫌な夢。イヤな自分に苦しめられ、自分をもてあましているハプトですが、メールデールに対する想いは美しく清らかです。
- 一方聖職者になろうとしているくらいだから、美しく清らかであろうとしているメールデールなんでしょうが、たった一度の悪夢に打ち砕かれてしまうほど、その清らかさは虚弱な基盤に立ったものだったのでしょう。
- 二人はよく似ている、まるで一つの心の裏表のように、という言葉が出てきます。善悪をそれぞれの表と裏から描いた作品に「城」があります。「アロイス」や強いて言えば「サイフリートとトーマ」なんかもそれに近いものがあるでしょう。
- 人間の両面性を単純に描くのではなく、二人の人間を対比させることにより、その両面性をより一層際だたせるという作風です。
- ともあれ、大変美しい作品です。単行本未収録なのが残念ですが、作品集の切れ目あたりなので、次の作品集が出たら収録されるでしょう。
- それにしても「あなたは自分の中にある優しさにさえ傷つく」というたった一言でハプトを理解し、優しく包んでいることがわかるリア姫。ちょい役なんですけど、いいです。