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ゴールデンライラック

初出誌「別冊少女コミック」1978年3〜5月号(150p)

ゴールデンライラック(プチフラワーコミックス391)

小学館 1982.7 480円 ISBN4-09-178391-0

萩尾望都作品集・第二期 第5巻 ばらの花びん

小学館 1985.10 580円 ISBN4-09-178025-3

ゴールデンライラック

小学館文庫(新版) 1996.5 580円 ISBN4-09-191016-5

【登場人物】
ヴィクトーリア(ヴィー)
ビリー・バンヴィクトーリアの従兄弟。
スタンレィ氏ヴィクトーリアの父親。銀行家。
スタンレィ夫人ヴィクトーリアの母親。
スティーブンス男爵ヴィクトーリアの夫。
コニーヴィクトーリアの娘。
【内容】
ビリー・バンは8歳。幼い頃両親に死なれ祖父に育てられていた。その祖父も亡くなり、 親戚にたらい回しにあった後、父親の義理の兄の家に引き取られる。彼は銀行家で裕福で、ヴィクトーリアという娘が一人いた。ヴィクトーリアはビリーと同じ年で、3歳のときに会ったビリーのことを覚えていた。初めてレディーとして扱ってもらって、嬉しかったからだ。
ビリーは翌日からヴィーと一緒に学校に通う。早速級友から「居候でみなしご」といじめられると、ヴィーが全力で戦ってくれた。親戚中でやっかいもの扱いされてきたビリーは、ようやく安心できる場所を見つけた。
ビリーはすぐに級友たちとも仲良くなり、ともだちも出来た。ある日、飛行機が飛ぶのを見た。そしてサーカスがやってきてビリーとヴィーは気球に乗って、初めて空を飛ぶ。1909年ルイ・プレリオがドーバーを飛行機で超えた。そんな時代だった。
成長するにつれ、男の子と女の子の違い、階級の違いなどが現れていく頃、スタンレィ氏が飛行機に投資をしようと、試乗する。飛行機は無事飛行に成功するが、着陸時のショックで脳の血管が切れ、昏睡状態に陥る。幸いに回復するが、銀行は倒産、一家は困窮し、屋敷を出てアパートに移る。
13歳になっていたヴィーとビリーは市場で働き、母はまだ回復途中の父のそばで内職をする。3人で何とか暮らしていたが、ヴィーはもっと良い仕事がないかと考える。高級ホテルの住み込みメイドの仕事を得、10日に一度帰って来るようになった。ヴィーはどんどんきれいになっていった。
16歳になったビリーはある日公園で気分の悪くなった紳士を助け、自宅に送っていく。そこにヴィーが描かれた絵が飾ってあった。ホテルをすでにやめたというヴィーを探し、ビリーはハーバート・スティーブンス男爵という名のその紳士に連れられ会員制クラブに行った。そこにはヴィーが踊り子として踊っていた。
驚いたビリーはヴィーを家に連れて帰ろうとするが、ヴィーは稼がなくてはならないのだから仕方がないと言われ、ビリーも自分も稼がなくてはと思う。一方、ヴィーはスティーブンス男爵にプロポーズされるが、断る。ヴィーの母親が倒れたとビリーが呼びに来て、ヴィーは家に戻る。
ビリーは地下鉄の工事現場で働いていたが、雇用主から賃金が半分しか支払われず、労働者はストライキを起こし、ビリーも刑務所に連れて行かれる。そこへスティーブンス男爵が通りかかり、ヴィーにビリーを助けるよう頼まれる。二人が刑務所に行くと、ビリーに「また同じことが起こるから、自分だけ出るわけにはいかない」と言われる。
虐げられた生活にうんざりしたヴィーはスティーブンス男爵の求婚を受け入れる。ヴィーと両親は昔のような裕福な生活に戻ることが出来た。どんなにヴィーが好きでも、ビリーは諦めるほかなかった。酒びたりになったビリーの目に飛行機が写る。ビリーは入隊して飛行機に乗ることを決意する。
1914年、ビリーたちが17歳のとき、第一次大戦が始まる。その頃、ヴィーたちは以前住んでいた家に戻る。戦争は続き、1917年、ビリーのいた飛行中隊が全滅する。その知らせを受け取ったヴィーは男爵とともに空軍参謀本部のあるロンドンのホワイトホールに向かい、安否を訪ねるも、ビリーが死んだことを確認するだけだった。空襲の中外に飛び出そうとするヴィーを止めようとして、男爵は心臓発作を起こす。
ビリーを好きだったヴィーはすべてを後悔する。だが、男爵はヴィーの気持ちを知っていて、結婚したのだから、かまわないとヴィーを受け止める。1919年、戦争が終わり、ヴィーに女の子が誕生する。男爵夫妻は過去の経緯を捨て、幸せに暮らしている。
そこへ死んだと思われていたビリーが帰って来た。フランスで捕虜になっていたのだが、終戦で帰って来たのだ。軍の飛行場で働くという。幸せそうなヴィーを見て、ビリーは飛行機の開発に全力を傾ける。
ある日ヴィーの娘コニーが引きつけを起こした。見てくれた医師の薬はきかず、朝までもつかどうかという危険な状態に陥る。主治医はフランスのカレーに里帰りしていて、嵐のため港は封鎖されて帰って来ることが出来ない。そこでドーバーを飛行機で越えてカレーに向かうことにする。
志願したのはビリー。嵐の中をコニーとヴィーを乗せて飛び、カレーまでの飛行に成功する。コニーはアレルギーを起こしていたが、主治医の薬で無事回復した。船で戻るというヴィーたちを男爵はタクシーで迎えに行く。その車が事故にあい、男爵は亡くなってしまう。悲しむヴィーをビリーが飛行機に乗せて慰めた。
ヴィーが元気になったのを見て、ビリーはアメリカに行くことをヴィーに告げる。5年になるか、10年になるか、わからない。ヴィーはビリーに「一番愛している」と告げる。
そして、ビリーは帰って来た。成長したコニーは初めてビリーが会ったときのヴィーと同じくらいになっていた。
【コメント】
第一次大戦前後のイギリスを舞台に、歴史に翻弄される女性がたくましく生きていく姿を描いた作品です。キーワードは「飛行機」そして「ライラック」です。非常にわかりやすく、美しい作品に仕上がっているのですが、それでいて、これまでの少女漫画誌にはなかった大人の物語になっています。
ヴィーはもともと気の強い女の子で、一家が困窮すると自分で稼がねばと考え、必死に働くのですが、貧しさから抜け出せず、ビリーに心を残したまま結婚します。ビリーの死でそのことを後悔しますが、優しい夫のおかげで幸せになることが出来ました。
スティーブンスの人間が出来ているからこそ、この物語は成り立っているのですが、彼が自分のずるさも認めているあたりが良いです。この物語が単なる幼なじみの悲恋に終わらずに済んだのはスティーブンスのおかげです。「いいんだ、わたしの方は一番愛していたんだから」なんて台詞は単純な少女漫画にはなかったものでしょう。「一番好きな人と幸せになる」以外の結末は認められなかった時代もあったのでしょうから。
萩尾先生の作品に「女の一生もの」と言える作品がいくつかあります。この作品は1897〜1927頃のもので、せいぜい3歳〜30歳くらいの間なので一生では全然ないのですが、その最初の作品かなと思いました。
2010.6.15