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アメリカン・パイ

初出誌「プリンセス」1976年2〜3月号(79p)1976.1

萩尾望都作品集 第17巻 アメリカン・パイ

小学館 1977.10 480円 ISBN4-09-178017-2

夢枕獏少女マンガ館

文藝春秋 1992 414p 16cm 550円 ISBN4-16-811018-4

アメリカン・パイ

秋田文庫 2003.6 600円 ISBN4-253-17672-0
【内容】
生まれ育ったマイアミで暮らし、地下ライブハウス「あなぐら」でバンドを組んで歌うグランパは両親に早くに死なれ、育ててくれた祖母とも4年前に死に別れた天涯孤独の身。顔は悪いが仲間に恵まれ、売れないが好きな歌を歌い、友達が世界中に散らばっていて、毎日楽しく暮らしている。
そんなグランパはある日、自分の朝食を盗んだ浮浪児のような少年と出会う。13〜14歳くらいに見えるが、行くところがないらしい少年を引き取って暮らし始めるが、実際は少女でリューという名前だったことがわかる。無口で、自分の考えを話さず、ドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」を口ずさむだけだ。
二人で海岸を散歩しているとき、飼っているオウムが誤って空気銃で撃たれ、死んだかと思ったリューが突然家に帰ってしまう。様子がおかしいと感じたグランパは、リューの思いを放とうと、前座で好きなように歌を歌わせてみる。朗々と歌うリューにグランパも観客も驚いたが、具合が悪くなり、途中で舞台を降りてしまう。
リューが病気なのかもしれないと思い、偶然知り合った医者に診察を依頼すると、リューについて意外なことが判明する。それは…
【コメント】
物語の最初と最後に使われている(これは最後の方。最初と微妙に違います)下記の詩があまりに素晴らしく、誰かアメリカのフォークソングシンガーが作った歌詞なのかなと以前は思っていました。「アメリカン・パイ」は先に曲の方を知っていたので、この曲の歌詞じゃないことは知ってましたが。ところがこれ、萩尾先生のオリジナルなんですね…。何て詩人なんだ…


古い古い歌が
誰が歌ったのかわからないくらい古い歌が
それをつくった人のことも歌った人のこともすべて忘れさられ消えさっても
その歌は残ってるように
幾世代すぎても想いはともに時をこえ歌いつがれて
そこに残っているように
そんなふうに生命の消えぬ限り時の消えぬ限り
いや もしなにもかもが失われ消えても
果てぬ闇の底に想いだけは残るのだ
時の流れに星ぼしの輝きの下に
また幾千の命の中をどこまでもどこまでも
かけてゆくのだおまえの想いは…
そう、よく読んで見ると、萩尾調なんですよ。全然違うけど「百億の昼と千億の夜」にもつながる思想。
アメリカ、それも脳天気なリゾート地マイアミを舞台にした作品なんて、ヨーロッパを舞台にした作品の多い萩尾先生の作品から見ると、珍しいなという印象は否めませんでした。が、これは死に近づいている少女の魂の「救済」のお話なのですから、明るい場所が必要だったのだろうかと思います。
古くからアメリカのリゾートの代表のように言われるマイアミですが、確かに大きなホテルが海岸沿いに並ぶ一大リゾート地です。ホテルだけではなくコンドミニアムも多い。でもハワイとは違って、意外と静かです。音が少ないとか人が少ないとかじゃなくて、雰囲気の問題だと思います。ハワイほど脳天気じゃない?という感じと言えばわかってもらえるかなぁ…。いかにも「アメリカ的」であることはあるんですけど。黒人の少年達がフットサルしてるとか、太った白人が並んで寝てるとか…ヨーロッパやアジアや南太平洋ほか南の島リゾートとは明らかに違います。
作品に話を戻すと、この物語は「生」と「死」に対する一つの回答だなぁと。あまりに哀しいお話なので、時々しか読めません。大好きなんですが。
というのも「グランパ」がいるからです。萩尾キャラクター癒し系No.1「グランパ」。この系譜を私は愛して止みません。これは「ミロン」(メッシュ)へとつながる不幸な美形を救う系譜の原型です。「顔は悪いがなかなか気のいい男のようじゃないか」。顔が長くて髪が長くて、お人好し。鳥だろうが、犬だろうが、人だろうが、何でも世話します。ああ、好きだなぁ…。
【備考】
「アメリカン・パイ」(ドン・マクリーン)について
ドン・マクリーンがバディ・ホリーに捧げた1972年の作品。8分以上の長い曲だが、次第に盛り上がるパワーに圧倒され、聞き飽きるということはありません。
ドン・マクリーンは現在も活躍中のようで、公式サイトDon MacLean Onlineにこの曲の歌詞が掲載されています。リフレインに出てくる"This'll be the day that I die"という節については 「これが私が死ぬ日」ではなく「私が死ぬなんて考えられない」と言う意味だそうで…。リューの言葉のようです…
物語の中にもありましたが、絶望の歌、というか、哀しい歌です。けど、曲調は明るい。「いかにも」アメリカン・ポップあるいはフォークという感じでもありません。長い物語です。是非一度聞いてみて下さい。
舞台について→こちら