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はるかな国の花や小鳥

(ポーの一族シリーズ)

初出誌「週刊少女コミック」1975年37号(33p)1975.7

ポーの一族 第5巻(フラワー・コミックス5)

小学館 1976.9 320円 ISBN4-09-130005-7

萩尾望都作品集 第6巻 ポーの一族 1

小学館 1977.11 480円 ISBN4-09-178006-7

ポーの一族 第2巻

小学館叢書 1988.8 1200円 ISBN4-09-197062-1

ポーの一族 第1巻

小学館文庫 1998.8.10 562円 ISBN4-09-191251-6

萩尾望都パーフェクトセレクション 7 ポーの一族 II

小学館 2007.12.26 1680円 ISBN978-4-09-131220-4

参考:ポーの一族年表
【登場人物】
エルゼリ・バードバラの館に住む婦人。26歳。16歳のとき、ハロルド・リーと恋に落ちる。
ハロルド・リーホービス市に住むエルゼリのかつての恋人。
ヒルス先生毎日エルゼリの家の前を通って往診する医者。
ジョウエルゼリのつくる合唱団の少年。
エドガー
アラン
【内容】
エドガーがとある館のバラに見とれていると、家の中から若い婦人が出てきて、バラを切ってくれると言い、招き入れる。すると彼女がピアノを弾き、歌を歌わせられ、地元の少年たちでつくっている合唱団に入るよう誘われる。幸せそうに笑うエルゼリに興味をもったエドガーは彼女の合唱団に入ることにする。
エルゼリに惹かれていくエドガーが他の少年たちはおもしろくない。つまらないけんかをした後仲直りして、エルゼリの過去を教えてもらう。昔、恋人に捨てられた腹いせに独身でいると噂されているのだ。エドガーは本人に直接そのことを聞く。
噂は本当で、10年前にハロルド・リーと恋に落ちたが、彼は去ってそのまま戻って来ない。それでも自分は幸せだとエルゼリは語る。エドガーはハロルド・リーがエルゼリを覚えているのかどうか知りたくて彼の住むという街へでかけるが…。
【コメント】
この物語はどうも「エルゼリは本当に幸せだったのか」という点に終始してしまいがちなのですが、この短い物語は「自ら時を止めて幸せに生きている人」に対するエドガーの共感と反発が主眼なのではないかと思います。エドガーは強制的に時を止められ、それを不幸だと思っている節があります。いつでも人間に戻りたがっている。ところが、自分で時間を止めてしまった人がいる。
そして、エドガーはエルゼリをメリーベルと重ねて見ています。
兄さん わたしたちはいつまでも子どもでいられるのだから
いつまでもはるかな国の花や小鳥の夢をみていていいのね
エルゼリはかつてそうメリーベルが言った言葉どおり、生きている女性です。
エルゼリが不幸ではないのは間違いないでしょう。それは別れる前の段階ですでに彼に婚約者がいるとわかっていたことが大きいように思えます。少なくとも「裏切られた」とは感じない。最初から向こうには向こうの人生があり、自分と出会ったのはいっときのことだということを理解していた。それが「運命も信じていた」とエルゼリが言うところかなと思います。確かに、それなら不幸ではない。一人でいることは彼女の運命である、というだけのことです。
しかし、エドガーの言うように「みんな現実に直面して憎んだり悲しんだりしている」わけで、彼女だけが除外されていることが普通は理解できない。エルゼリは憎んだり悲しんだりするのは自分は弱虫だから耐えられないと言いますが、それだけ現実から目を背けることが出来るのもまた強さだとは思います。
ただ、エルゼリもハロルドが死んでしまうと自殺するわけですから、ハロルドが生きている世界が「はるかな国」なことも確かです。これが私には一番理解出来ない点です。「ハロルドが生きていて、自分と一緒にいない世界」が彼女にとっての唯一の現実であり、ハロルドが死んでしまえば世界は死滅します。では「ハロルドが生きていて、自分と一緒にいる世界」があったら、それも彼女にとっては受け入れられない現実ではないか、とも思ってしいます。
エルゼリは作中にあるように「人間にはなれない人」だったのでしょう。彼女は人間になれなかったのですから、その人の幸・不幸をとやかく考えても仕方がありません。個人的には子どもの頃に「イギリスには働かなくても祖母の財産だけでメイドが雇える階級の女性がいる」という現実に向き合わなくても住む環境の女性がいるということ知ったことが重要かなと思います。
この話でのマザーグースは「AはアップルパイのA」です。
2010.5.13