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エヴァンズの遺書

(ポーの一族シリーズ)

初出誌「別冊少女コミック」1975年1〜2月号(80p)1974.11

ポーの一族 第4巻(フラワー・コミックス4)

小学館 1976.1 320円 ISBN4-09-130004-9

萩尾望都作品集 第7巻 ポーの一族 2

小学館 1977.12 480円 ISBN4-09-178007-5

ポーの一族 第3巻

小学館叢書 1988.7 1200円 ISBN4-09-197063-X

ポーの一族 第2巻

小学館文庫 1998.8.10 562円 ISBN4-09-191252-4

萩尾望都パーフェクトセレクション 7 ポーの一族 II

小学館 2007.12.26 1680円 ISBN978-4-09-131220-4

参考:ポーの一族年表
【登場人物】
エドガー・ポーツネル
メリーベル・ポーツネル
ポーツネル男爵エドガーとメリーベルの養父
ヘンリー・エヴァンズ伯爵オズワロドの孫
ロジャー・エヴァンズヘンリーの弟
ドクトル・ドドエヴァンズの館にいる医者
リンダ・グリーナウェイエヴァンズ泊の亡くなった妻の親族。アーネストとはいとこ同士
アーネスト・グリーナウェイリンダのいとこ
エレンエヴァンズ伯爵の小間使い
【内容】
オズワルド・オー・エヴァンズ伯爵(1735〜1780年)が残した遺書がエヴァンズ家に伝わっている。
エドガーはポーツネル男爵たちと離れ、単独行動をとっていた。リトル・ヘイブンのホテルで待ち合わせをしていたのだが、嵐のせいで崖から馬車が落ち、濁流にのみ込まれてしまった。エヴァンズ伯爵の領地内でエドガーが引き上げられたとき、すでに息をしておらず、遺体は館の地下室に安置された。
ところが夜中にエドガーが目を覚まし、エヴァンズ伯爵がそれに気付く。青い目に赤い血を流しているエドガーを見て、伯爵は死んだ妻を思い出す。エドガーは再び眠り込んだが、10日ほどして目を覚ました。ところが事故のショックで記憶を失っていて、口から出てくるのは「エドガー」という名前と「あの子どこ?」という質問だけだ。あの子、とはむろんメリーベルのことである。
オズワルドの孫にあたるエヴァンズ伯爵は、祖父が風変わりな遺書を残していたことを知っていた。「エドガー」という名前からそのことを思い出す。オズワルドの遺書はこれから後のエヴァンズ家の世代でエドガーとメリーベルに出会ったら、全財産を譲れというものだった。遺書は40年前に書かれたもので効力はないが、エヴァンズ伯爵は祖父の遺志に添い、エドガーが回復するまで面倒を見ようと決意する。
一方、エドガーと落ち合うことが出来なかったメリーベルは、エドガーがエヴァンズ伯の館にいることを突き止める。1ヶ月もそこに滞在していて連絡もよこさないことを不安に思い、ポーツネル男爵夫妻と別行動をとる。ロンドンに住むエヴァンズ伯爵の親族が毎冬スケートにやってくることを知り、親族に近づいてエヴァンズの館に潜り込む。久しぶりに会ったエドガーは記憶をなくしていたため、メリーベルはエドガーの回復を待つことにするが…。
【コメント】
エドガーとメリーベルがパンパネラとしてともに過ごしたのは1757年〜1879年の122年間。この物語は1820年頃が舞台です。「ポーの一族」でのひ弱な、エドガーを頼ってばかりのメリーベルのイメージが強かったのですが、ここではエドガーとメリーベルの立場は逆転しています。記憶をなくして弱々しいエドガーをメリーベルが策略を巡らせ、救い出しに来るのです。「ポーの一族」シリーズで、メリーベルが主役なのは、この作品だけです。お話としても
19世紀、貴族の館、パンパネラ、という舞台装置としてはおどろおどろしいこの作品を、間抜けで明るいものにしてくれるのが、ロジャー。借金まみれで兄の殺人計画などを立てるようなダメ男なのですが、ちょっと憎めないお人好しな人物で、面白いキャラクターです。
エドガーに気を取られ、自分の事業の心配をしてくれない兄に苛立つロジャーだけでなく、登場人物の思惑が様々に入り乱れています。アーネストはメリーベルに恋をしていてエドガーが邪魔だし、メリーベルはエドガーが回復しないか待っているし、ドクトルはメリーベルのエドガーに対する態度がおかしなことに気付いています。貴族の館で複数の人がそれぞれの思惑で動いていたり陰謀が巡らされている様が、古典的なミステリーの室内劇のようです。
ところで、冒頭に出てくるオズワルドの件の「遺書」の中での「わたしの―兄妹」という言葉に(あにいもうと)とルビがふられていますが、エドガーはオズワルドより5歳年下の筈ですので、おとうとだと思います。
神よ
わたしたちの生涯は
多くの生命の上に
きずかれてゆきます

わたしはこの世では
もう死んでしまっているはずの
二人のことを
わすれることができません
わたしの――兄妹

まったくバカげているが
のちの世にたくして
遺書を一通
かこうと思います
――これは気やすめだ
――だけど―だ
もう一つ。メリーベルとロジャーが一緒に歌う歌を書き出します。「メリーベルと銀のばら」でオズワルドとメリーベルがともに歌ったものです。そちらの方は「笑う大天使(ミカエル)」(川原泉)でパロディにもなっています。最初に読んだときは、そういう童謡がイギリスに実在するのだと思っていました。
からみつくよ からみつくよ 愛してる
金色に におうよ 金色に
ジンチョウゲ ジンチョウゲ 金色ににおう
からみつくよ からみつく 愛してる
2010.5.7