09/23

2013

マンガの食卓/南信長

マンガの食卓食べ物がおいしそうな漫画が好きです。が、いわゆるバトル・グルメ漫画に興味がありません。ストーリー物の漫画にちょっとしたモチーフやアクセントとして食べ物を扱っているくらいが好きです。レシピも載っているとなお嬉しい。「きのう何食べた?」が一番典型的に好きな作品です。

本書を購入した一番の目当ては「うどんの女」(えすとえむ)だったのですが、タイトルにあるくらいですから、かなり「うどん」中心です。「うどん」なんて平凡な食べ物が年齢差のある男女のじれったい恋愛に使われるというのもまた意外性が高くて、驚いたものです。やっぱりあのDVDは「タンポポ」でしょうか。白い服の男女はたいへんにエロティックでしたね。

私は1980年代、1990年代の『ビッグ・コミック・スピリッツ』の愛読者でしたから「ギャラリー・フェイク」や「めぞん一刻」には思い入れが深く、「ギャラリー・フェイク」の藤田がカニチャーハンにこだわるのはよく覚えています。なぜなら私の一番好きな食べ物がカニだからです。カニチャーハンのときばかりは藤田への親近感が強烈にわくのでした。「めぞん一刻」のお弁当や食べ物がアシスタントさんのこだわりにより、たいへんに写実的なのは連載当時から有名でした。そこへあの高橋先生独特の擬音が入るので、これがまた素晴らしくおいしそうでした。

途中ちょっと強引に二頃対立に持ち込んでいる部分もありましたが、全体的に取り上げる作品点数を多くすることを主眼にしているので1作品に割く文章が長くなく、その分さくさくとテンポ良く読める本でした。

1点だけ私が残念に思ったのは、図版の多くがノド側のゆがみや影がそのまま印刷されていることです。私は図版が引用されている漫画の研究書や解説本をそんなにたくさん読んだことがあるわけではありませんが、手元にある数冊を見ても、ほとんどそのようなゆがみは見受けられません。

古い、希少価値の高い雑誌や、絶版本から撮ったものは仕方がないと思うのですが、今現在刊行されているものは、本を割って平面にしてスキャンすべきではないかと思います。いくら小さい図版であっても、絵が歪んでいるので全体の印象が少し崩れます。小さな図なので内容がわかれば良いというお考えだと思いますが、商業出版でこれはちょっとな...と思わざるを得ません。ここが少し残念でした。

蛇足ですが、私はグルメ漫画、好きな作品と嫌いな作品があって、いわゆる料亭ものは受け付けません。「おせん」が代表的なものかと思いますが、読んでもまったくおもしろくない上、役にも立たないし、実現出来ないことに凹んでしまい、精神衛生上よろしくない。でも、小池田マヤ作品や西村しのぶ作品のような実用的なうんちくはたいへんに好きです。読む者の気持ちを豊かにしてくれます。この辺あまり載ってなかった思うのですが、そこは「マンガ食堂」の領域だから避けられたのでしょうか?(私はこのブログの大ファンで、もちろん本も読みました。)

また一方、「玄米せんせいの弁当箱」のような食育ものは好きではありません。私も食べること、食事を作ることをとても大切にしていて、ジャンクフードは好きではありませんが、そうではない人に対しての侮蔑的な視線が感じられますし、気にしていても出来ない人にはプレッシャーに感じられるのではないかと思います。食事に気を遣うことが出来ない(味オンチ、料理下手、興味がもてない)コンプレックスをもつ人は案外多いのです。そういう人に対してプレッシャーにならないように日頃から気をつけているので、反面教師なところもあるのかもしれません。「食を大事にしなくてジャンクフードばかり食べていたら死ぬぞ」的な脅しが強すぎるように思えますが、いかがでしょうか?

■書誌事項:NTT出版 2013.9.10 ISBN978-4-7571-4316-6