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2013

本屋の森のあかり 第2巻/磯谷友紀

本屋の森のあかり講談社 2008.1.11(KC Kiss)
初出『One More Kiss』2007年5月号/『Kiss』2007年 No.9,20~22


本屋の仕事とはどういうものかを教えてくれるエピソードが並んでいる巻です。主要キャラクターの性格を少しずつ描いて教えてくれます。



Book 6「戦争と平和」
「戦争と平和(改訳)1~4」トルストイ著,工藤精―郎訳,新潮社・新潮文庫,2005~2006

【内容】町の小さな書店の万引きを取り上げた回。戦後の露天市から出発した、小さな時計館書店では大手である須王堂から新刊書を9掛で卸売りしてもらっています。これは小規模書店には取次からの配本数が少ないためです。高齢の店主が一人で切り盛りしていますが、やり手の孫娘が手伝っていて、後継者として名乗りをあげています。あかりが小さな書店には顔を覚えてくれたり、本を薦めてくれたりといった大手にはない暖かな雰囲気があり、居心地が良くて通いつめます。
しかし、新刊書の万引の被害は小さな書店には打撃が大きく、孫娘に店を継いでもらうべきかどうか、店主は悩んでいます。「戦争と平和」は読書家の店主が毎年1回読むという愛読書で、すでに60回を超えているという驚きの読書量です。店主は孫娘のことを「戦争と平和」のマリアのようだと思います。老いた父公爵のことを思うと「禿山」から離れられないマリア。店主はこの本屋に孫娘を縛り付けているのは自分ではないかと悩み、継がなくても良いと言います。
いごこちの良い書店を残すため「新刊書販売をやめては」というあかりの暴言に近い助言が功を奏し、時計館書店は更に居心地の良い書店となって存続することになりました。


Book 7「ドリトル先生と月からの使い」
「ドリトル先生と月からの使い(新版)」ヒュー・ロフティング著,井伏鱒二訳,岩波書店・岩波少年文庫,2000

【内容】本ばかり読んでいて、現実を見ない寺山は三十過ぎて動物園で本物の像を見たことがありません。栞が気を利かせてあかりと寺山を動物園に行かせます。迷子になりそうになったあかりが寺山の手をつかんでしまうと、最初はあからさまに拒絶されたたりします。浮世離れした寺山がドリトル先生に似ていると感じたあかりは、ドリトルの周囲には女性が登場しないことから、寺山には彼女がいたことがあるのではと思わず確認をとってしまいますが、自分は恋愛を理解できない冷たい人間だという拒絶が返ってきます。それでも、弟子のトミーが月まで追いかけてきたときにドリトルが喜んだ話を思い出し、いつかそんなふうに近くにいられたら、それでいいと思うあかりでした。


Book 8「千一夜物語」
「完訳 千一夜物語 1-13」豊島与志雄・渡辺―夫・佐藤正彰・岡部正孝訳,岩波書店・岩波文庫,1988

【内容】作家のサイン会は書店のイベントの中でも派手なものの一つです。昔からの寺山と知り合いで、今は有名になった女性作家が登場します。書店員と作家という関係をシェフリヤール王とシェヘラザードの関係に似せ、お話に夢中で相手を見ていない寺山という人物を浮かび上がらせます。
王は妻に裏切られ、一晩過ごした女の首を刈るのですが、シェヘラザードは王に物語を聞かせ、翌日も聞きたいと思わせることによって生きながらえています。彼女の紡ぐ物語は命がかかっています。そして、物語が生み出せないときの作家の苦しみを「明日には王に首を刈られる」と表現しました。この回は「デイビット・コパフィールド」より更に作品との連携が良いように感じました。


Book 9「寒山落木」
「評伝正岡子規」柴田宵曲著,岩波書店・岩波文庫,1986
「子規句集 寒山落木より」正岡子規著,寒川陽光編,政教社,1915
「子規句集」正岡子規著,高浜虚子選,岩波書店・岩波文庫,1993

【内容】大型書店のサービスカウンターは本がどこにあるか聞いたり、書店にないものであれば発注を受けてくれたりと、客にとっては便利な場所です。そこのチーフに抜擢されたあかりでしたが、経験豊富なアルバイト・端山の方が有能であることから落ち込みます。いつも句集を発注する話の長い老人にも好かれていて、あかりのようにわかりやすく退屈そうな顔などしません。

その端山が、いつも通り愛想良くしていれば良いと対応したお客様を怒らせてしまいます。「本当は本は好きではない。本の好きな人の気持ちがわからない」ことが原因で失敗し、傷ついた端山を見て、あかりは全力でフォローに走り、無事に仕事を終わらせることができます。

話の長い老人から聞いた、正岡子規の「幾度も 雪の深さを 尋ねけり」という句の意味を寺山に問います。これは子規は病床から動けず自分で雪の深さを見ることが出来ないために周囲の人に何度も外を見てもらったという句で、「売り場で何度も尋ねても、嫌な顔せず答えてくれてありがとう」という意味ではないかと寺山に答えてもらい、それを端山に伝えます。ほかにも「稲の香や 闇に一すぢ 野の小道」(平塚より子安に至る道に日暮て)、「うつむいて 何を思案の 百合の花」が登場します。


Book 10「雪の女王」
「アンデルセン童話集(新版) 3」アンデルセン著,大畑末吉訳,岩波書店・岩波少年文庫,2000

【内容】全国展開のチェーン店である須王堂は新店舗開設の折に人員の現地採用もしますが、経験豊かな他店からの手伝いも必要です。東北の都市にオープンする店舗に本店からまずは栞が、次に緑とあかりがかり出されます。てきぱきと仕事を進める緑に対して、自分のペースで棚をつくっていくあかり。メインフェアの棚が郷土史や郷土出身の作家であることに対し、地方の開店時採用の経験から疑問に感じたあかりはやり直しを提案し、あらたなテーマを探します。

あかりは児童書の棚で面出しした「雪の女王」を思い出します。ゲルダがカイの家に遊びに行く場面で「夏はひとまたぎで行ったり来たりできるけど、冬はたくさんの階段を下りてまた階段をのぼらなくてはならない」というように、この街でも冬が長く、夏が待ち遠しい。そのことから、あかりは新しいテーマを思いつくことができました。
最後は寺山と再び雪景色を眺め、帰途に着くのでした。