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2011

河内遙時代短編集 チルヒ

河内遙時代短編集 チルヒ小池書院 2009.5.20 ISBN978-4-86225-467-2


江戸時代を舞台にした短編集。格調高い作品群ですが、初出誌を見て納得。商業誌に掲載されたものばかりではなかったわけですね。江戸ものの遊女の作品というと、安野モヨコ「さくらん」がまず浮かびます。それから明治になりますが松田奈緒子の「雪月花 大門パラダイス」も近い感じ。これらと同様、独特の柔らかく細い線が艶めかしくもの哀しく、雰囲気に合ってます。「春/梅雨/夏/秋/冬/陽春」と季節を追ったスタイルも情緒があって良い。

○チルヒ
足の不自由な遊女のお話。足が不自由というのは、途中までわかりませんでしたが、遊郭ではなく船なのでその辺は事前に知識があれば自分にもわかったでしょう。若い髪結いは女性の髪は結わなかったのか、あるいは男性の髪結いは女性の髪は結わなかったのか、その辺の知識が自分にはありません。彼が「江戸に戻って来たら」と言う言葉はきっとかなわないのだろうけど、わずかな希望の感じられる美しいラストでした。

○ハスネ
お寺の陰間の話。寺院の陰間と言えば、それこそ大昔からいた存在で、少しきれいな子がやってくると即陰間なんでしょうか。お寺にもらわれてくる子と言えば、学があるか、親がいないか育てられない子が圧倒的だったでしょうから、お寺としては好きに出来たんでしょうね。もの哀しい中にも狸の化かし合いといった面もあり、あまり陰鬱な作品ではありません。

○ヒトヨヒメ
遊郭での女郎の話。見開きページ、花火とお盆のナスが素敵な構図で、いいですね。単行本時に追加した描き下ろしです。

○テンキク
天狗のお話。修行中に迷子になった天狗の子と人間の女の子のほんわかした交流が愛くるしい。天狗は鳥目だから夜は動きがとれないので、食事をあげて夜一緒に寝てあげようとするも「みのが汚くて悪い」と遠慮するという、なんともかわいい天狗の子。ペットを拾ってきた子供と同じだ。せっかく仲良くなったのに、別れなくてはならない寂しさに泣く女の子に薬を烏帽子を預けて天狗の子は去っていく。最後は、また会えるよね、といった感じでほっとする。

○ユキオレ
酒びたりで女房に出て行かれた男の話。残されたかんざしが語る女の想いが哀しい。

○サクヒ
家出娘と帰ってきた髪結いがいっとき茶屋で出会ってのお話。髪結いの男はきっと女のいた船着き場へ戻るのでしょう。その先はわかりません。


■初出誌
チルヒ...時代劇漫画[ジン] 2008年4月号(小池書院)
ハスネ...時代劇漫画[ジン] 2008年7月号(小池書院)
ヒトヨヒメ...描き下ろし
テンキク...大阪芸術大学 大学漫画 vol.10(大阪芸術大学/小池書院)2008年
ユキオレ...大阪芸術大学 大学漫画 vol.11(大阪芸術大学/小池書院)2008年
サクヒ...大阪芸術大学 大学漫画 vol.12(大阪芸術大学/小池書院)2009年