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2016年11月 2日

2016年11月 2日

つつましい英雄/マリオ・バルガス=リョサ

つつましい英雄バルガス=リョサの二つのお話がカチっと合わさる瞬間が好きだ。第17章の直前。確かにもう以前のリョサの作品のような混沌とした熱さを感じなくなってしまったが、老練なというよりはガチガチに堅い感じを受けるが、でもおもしろい。小説の醍醐味は充分に味わえた。

作者自身が老境なので、登場人物が老人(というには少し若いけれど)ばかりなのは仕方がない。愚かなのは若い男達ばかりだ。フェリシトにはモデルがいると言う。ペルーのような国で脅迫に屈しないというのは、どれほど大変なことか。フェリシトの父親のように最底辺にいながら「踏みつけにされない」誇りを持つというのは、どういう意味か。自ら誰かに屈しないという意味だろうか。

リトゥーマやピウラを再び登場させたことも、古くからのファンへのサービスだろうか。リトゥーマの旧友を登場させて、いかにも普通の人の中にマフィアが隠れているかのような流れをつくっておいて、そこかという展開。イスマイルの息子のダメさ加減もまた伏線のようにすら見える。

エディルベルト・トーレスで少し遊んでいるような印象だが、最後まで「誰だろう?」と引っ張られてしまう。そして最後、フォンチートがあの「継母礼賛」のあの子供だということを思い出した。してやられた感じで、苦笑。

■書誌事項
マリオ・バルガス=リョサ著,田村さと子訳
河出書房新社 2015.12.30 436p ISBN978-4-309-20694-3
■原綴:El héroe discreto, Mario Vargas Llyosa, 2013