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2016年3月

2016年3月 9日

はるかな星/ロベルト・ボラーニョ

はるかな星「アメリカ大陸のナチ文学」の最後の章に登場する主人公を膨らませた物語。カルロス・ラミレス=ホフマン→アルベルト・ルイス・タグレ→カルロス・ビーダーの物語。最初は詩を学ぶ大学生として登場し、猟奇的な殺人を行って姿をくらますと、突然空軍のパイロットになっている。パイロットの訓練は学生になる前に受けていたのだと思うが、謎だ。
空中に詩を書くパフォーマンスというのは広告ではあるようだが、5機が息をそろえて飛ばないと出来ないものらしい。後書きにカルロス・ビーダーのモデルとなったラウル・スリータという詩人について、そしてその詩人が「新しい生」という詩を1982年6月2日、ニューヨークの上空に詩を描いたパフォーマンスがYouTubeにあるというので、探してきた。

La vida nueva de Raúl Zurita. Escritos en el cielo, Nueva York, 2 de junio, 1982 [Fragmento]

この動画で私はようやく、イメージがつかめた。なんとなくはわかっているのだが、空に詩...?とピンと来ていないところもあったから。

さて、このカルロス・ビーダーは空軍のパフォーマーとして名をはせていたのにもかかわらず、突然自分のやったことを写真にして見せるという行動をとる。どんな写真かは「アメリカ大陸のナチ文学」には書かれていなかったが、「はるかな星」でははっきりとガルペンディア姉妹の死体と書いてある。それもバラバラのものらしい。その残虐行為を何故人に見せたのか。そして逮捕されずにどうやって逃げたのか。全て謎だ。

「はるかな星」の「はるか」とはスペインからチリを見たときのボラーニョの視線であることに間違いはないだろうけれど、望郷の念は感じず、謎の多い、空虚さを感じる筆致だ。でもぐいぐい引き込まれるのは初期からそうだったのだと確認できた。

■原綴:Estrera Distante, 1996 Robert Bola˜no
■書誌事項:斎藤文子訳 白水社 2015.12.10 184p ISBN978-4-560-09266-8(ボラーニョ・コレクション)