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2014年10月23日

生誕100周年記念 トーベ・ヤンソン展~ムーミンと生きる

生誕100周年記念 トーベ・ヤンソン展~ムーミンと生きる2014年はトーベ・ヤンソン生誕100周年のため、さまざまな企画がおこなわれている。中でも筑摩書房のトーベ・ヤンソン・コレクションが再版されたのは、たいへん喜ばしい出来事だった。古書店で高値がついていて、手が出なかったからだ。一気に全部は買えないが、少しずつ買いそろえて行こうと思う。

生誕100周年の記念イベントはまず「ムーミン展」が日本の独自開催で開かれている。4月に松屋銀座で開かれたときは大盛況だったようだが私は行ってない(その後全国巡回中)。私は「トーベ・ヤンソン展」の方が楽しみだった。こちらはフィンランドで開かれたものが日本にやって来るのだ。

トーベ・ヤンソンは一般的には児童文学作家・童話作家と思われているが、出発点は画家である。絵画をベースに挿画、漫画、童話などを展開していき、最終的には絵のない小説家として芸術家としてのサイクルを終わらせている。私自身は小説家・トーベ・ヤンソンが好きなのではあるが、彼女の小説にはその生い立ちや生活が事細かに反映されているので、人となりを知りたくなるのは当然の流れかと思う。もちろん「ムーミン」という作品も含めてだ。私自身は熱心なムーミン・ファンではなく、アニメで見た程度の知識しかないが。

クルーブハル夏の家「トーベ・ヤンソン展」は画家としてのトーベを中心に据えた絵画展だ。挿画や漫画の原画も展示されている。私が一番見たかったのは、クルーブ・ハルの夏の家の再現だ。早速初日に行って観てきたが、ここは撮影可だった。電気もガスも水道もない(後半は発電機が導入されたようだが)場所で、静かに執筆に打ち込むのは、芸術家としては理想だろうと思う。私がトーベの小説が好きなのは、その孤独から来る静謐さ、何もないところで生きていくことの厳しさへの憧れからだろうと思う。

絵の方だが、まず、「個人蔵」が多いのが目を引く。その理由は後から「ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」を読んで知るのだが、生活のために次々と絵を売って行ったからだそうだ。今回の展覧会のために呼びかけて出してくれた人が多数。フィンランドの家庭にとけ込んでいるのだろう。壁画も多数制作したそうが、こちらは持ってくることはもちろん無理だが、もう残っていないものもあるそうで残念だ。写真で壁画だけでなく、アトリエも見ることが出来たのはよかった。自分のスペースを大切にする人なのだということが、しっくりくる展示だった。→(絵の一部が見られる)

絵画については、当初抽象的な絵も一部あったが、基本的には自然主義的な絵を精力的に描き、後年また抽象画に挑戦したりしている。華やかな色遣い、大胆なタッチで描いた風景や肖像画を描いているが、その中でも「人」の絵が目を引く。自画像や家族の絵が印象的だった。絵画以外にも『ガルム』誌の表紙やムーミンのイブニング・ニュースの連載漫画、「不思議の国のアリス」「ホビット」の挿絵なども見ることが出来た。もちろん、ムーミン本の表紙画などもある。

ムーミンだけを期待して来た方には、少し物足りないかもしれないけれど、この機会にトーベ・ヤンソンその人に興味をもって、更に言うなら小説も読んでもらえると嬉しい。

■展覧会
2014年10月23日~11月30日
そごう美術館

以後巡回