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2012年7月 5日

あの川のほとりで/ジョン・アーヴィング

Last Night in Twisted River, 2009

あの川のほとりで 上あの川のほとりで 下
小竹由美子訳 新潮社 2011.12.20
上:380p ISBN978-4-10-519113-9下:410p ISBN978-4-10-519114-6

読み進みづらい小説だった。つまらないとか難しいといった理由ではない。これから何が起こるのかわかっていて、それが起こって欲しくはないが、アーヴィングの場合、運命的にそこへ吸い寄せられるように向かっていくことがわかっているからだ。そこに至るまでに様々な物語が展開するであろうことは予想できて、かつその内容まではわからないので楽しいものもあるのだが、いつだってそのことがちらついて頭のどこからか離れない。読み進めて行くと、それが起こるシーンを読みたくない度合いが更に強まるという状況で、どうしてももたついてしまうのだ。それが実際に起こってしまえば、その後はさーっと読めるのだが。

(以下ネタバレ)

物語はぐっと先に進んでそこから遡る形をとっているから、この期間に何が起こったかをある程度の幅の期間で示してくれるので心の準備が出来る。それでも最後は示さないので、それがどこで起きるかはやはりわからない。

新潮社の紹介文に半自伝的と書いてあるが、確かに大学は同じだし、ヴォネガットが登場するのはさすがに初めてだし、カナダに住んでいるし、要素としてはいくつか当てはまる。けれどこれまでの作品もみなそうだし、その要素がいつもより少し強いだけで、半自伝的は言い過ぎだと思う。お話は基本的に新しい物語だが、アーヴィング特有のいつものアイテムも収められている。「あらがいがたい暴力」「クマ」「自動車事故のおき方」「子供を亡くす」等々。

このお父さんは、結局のところ結構長く生きたので、そんなに悲しい出来事ではないのかなと思うのだけど、その場面に出くわしてしまうとやはり悲しい。結局のところ47年間息子を最後まで守り通したのだから、本当に立派だと思う。それぞれ彼女も出来たし子供(孫)も産まれたし、仕事も順調だし、といろいろあっても、この父子の絆は変わらない。高校生のときに離れて暮らしたりしたら、そのまま離れるかと思いきや、ちゃんとまた大人になって一緒に暮らしていたりするのだから。

この作品を読み終えて、人生は長くてそして面白いものなのだなと感じる。80歳を過ぎても結婚したがる女性がいたり、60歳になっても運命の出会いがあったりするのだ。「未亡人の一年」はじめすべての作品の根底を流れているのがこの感じ。暴力的で悲惨な出来事がたくさん起きているからこそ、アーヴィングの人生賛歌っぷりは際立つ。そして、だから飽きずに読み続けるのだろう。「人生は素晴らしい」なんてことが書かれた小説を読んだことのなかった20年前から変わらずに。

この装幀の絵が印象的。中川貴雄さんというイラストレーターの方が書かれているのだが、下巻の男の子の手をひいてるお父さんの絵が、そのまま中表紙にも使われているように、この作品を象徴しているように思えた。