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2009年3月22日

未来の記憶

未来の記憶 エレナ・ガーロメキシコの現代女性作家の日本での唯一の翻訳作品。エレナ・ガーロはオクタビオ・パスと結婚していたこともある。
小さい頃使用人のインディオたちに教わった魔術的な幻想世界からの影響を受けている云々、というのは、ラテンアメリカ文学のよくある口上の一つ。アルゲダスなんかもそうだった。

最初に罰を受けて石になった女性が「私の町」という一人称で語り始める。タイトルからして、この石になった女性が自分が石になったいきさつを語り始めているのだろうと思うが、登場人物の誰が石になるのか、最初はわからない。次第にフリアかなと思うのだが、フリアは魔法のように消えてしまう。二部構成で後半になると、イサベルなんだなということが徐々に判明していく。

全体的に暗く重い物語だ。町全体が経済的・精神的に抑圧されているが、抑圧している方の軍人たちも、何かにおびえてそこから逃れようと娼婦を駐屯地にしているホテルに連れ込んでいるようにも見える。その中でも更に、女性たちがひどく抑圧されていて、読み進むうちに次第に陰鬱な気分になる。だからフリアが自由になると、自分も解放されたような気がしてほっとする。

ところが二部になると、フリアに逃げられた将軍が益々乱暴になり、反乱も起きて、更に暗くなっていく。神父を逃がすための町をあげてのパーティーのシーン、ここが物語最大の山場だが、夜中になってヘロヘロになりながら開かれるパーティは「山猫」のパーティーシーンを想起させた。搾取の連鎖の中で、最下層に位置するインディオの使用人に裏切られて、逃亡は失敗、多くの逮捕者を出してしまう。

そんな中でイサベルが兄を裏切ったのは何故か。「愛ゆえに」と解説などには書いてあるのだが、それだけではないだろうと思うのだが、よくわからない。

■著者:エレナ・ガーロ著,冨士祥子,松本楚子訳
■書誌事項:現代企画室 2001.8 392p ISBN4-7738-0111-5/ISBN978-4-7738-0111-8
■原題:Los Recuerdos Del Porvenir.1963, Elena Garro