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2009年1月25日

ハバナ奇譚

ハバナ奇譚マイアミに住むハバナ出身の新聞記者が幽霊屋敷の謎を追いつつ、一方でバーで老女の昔話を聞く。この両方の物語が入れ子に同時進行していくのだが、昔話の方が壮大なわりにあっさりしていて、すごく残念。アフリカ、スペイン、中国に始まる3世代の物語を描くには明らかに枚数が足りていない。それだけで1冊書けばよかったのに、と思わせる。おもしろそうな素材なだけにもったいない。結婚を反対され駆け落ちして店を開くってあれ?前にも同じ話なかったっけ?と思ったらやはり繰り返しているし。ハバナが黒人、白人、黄色人種が交錯している街で、実に面白い題材なのに。

私の頭の中にあるハバナの映像は「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」だ。すばらしい音楽にあふれ、驚くほど明るい人々が映っていたが、同時にその背景となる街は廃墟同然。古びて新しくなったところがまるでない。それはそれで趣はあるのだが、現実に住んでいる人がいるのだから、その人たちにとってはそれで良いはずはない。

この本で一番印象に残るのは、繰り返し語られるセシリアの孤独だ。マイアミに逃げ出して来たのにハバナを憎み、そして愛している。故郷から断ち切られた存在のなんと不確かなことか。わずかながら同じ街に住む友達や親戚や恋人がいても埋まらない。亡命ハバナ人の孤独、それがこの本の主題なら、成功していると思う。

「マジックリアリズム」と呼ぶには妖精さんがかわいらし過ぎ。著者本人も言うようにファンタジーなんでしょう。私にはそれもまた不満の一つで、過去の物語が南米的なおどろおどろしさに欠け、アングロサクソンの薄っぺらい幻想文学になっているように思える。自分が幻想文学のすぐ側にいて、避けているのはこういうことかと思い知らされた。

それにしてもこの装画のすばらしいこと。丸山幸子さんというイラストレイターの方の絵のようで、これまでにも多数の本の装画を手がけられている模様(公式サイト個展)。


■著者:ダイナ・チャヴィアノ著,白川貴子訳(装画:丸山幸子)
■書誌事項:ランダムハウス講談社 2008.6.19 504p ISBN4-270-00364-2/ISBN978-4-270-00364-0
■原題:La Isla de los amores infinitos, 2006 Daína Chaviano