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2007年6月

2007年6月30日

落葉 他12篇

蹴る群れすでに持っているものばかりなので、新潮社から再編集されているガルシア=マルケスの一連の新刊を買おうか買うまいか、ものすごく迷って、結局買ってしまった。というのも、読んだのがあまりにも前で、内容も細かいことは覚えていないし、同じタイトルでも収録作品が違い、時系列に再編集されているためだ。短編集「青い犬の目」(福武書店)の全編、「落葉』」(新潮社)から表題作、「ママ・グランデの葬儀」(集英社)から「土曜日の次の日」をまとめたもので、1947~55年の初期の作品を集めた短編集となっている。

「土曜日の次の日」「落葉」「マコンドに降る雨を見たイサベルの独白」をこうやって並べて読んでみて、なるほど、連作だと実感する。実を言うと「落葉」より「マコンドに降る雨…」の方が記憶に残っている。雨がずっと降りっぱなしだと、人間だらけていくというより感覚が鈍くなっていく感じがよくわかる。生きていく気力がなくなるというか、気迫が薄くなるというか、そういう感じがじわっと伝わってきて、妙にぬめっとした感じの残る作品だった。最後は晴れて本当に良かったなーと思うのだけど、そこら辺の決着の付け方がマルケスは初期の頃からとんでもなくうまい。

表題作「落葉」だけが短編ではなくて中編。大佐と呼ばれる祖父、その娘と孫の3人の意識が同時進行で進んでいく。この話、なぜかとてつもなく怖い。大佐は約束を果たすことで満足しているのかもしれないが、所詮老い先短い。残された娘と孫を永遠の孤独の中に閉じこめてしまう怖さがじわっと伝わってくる。で、あとがきを読んで「ダロウェイ夫人」の影響について触れられていて、なるほどなと気づく。

「三度目の諦め」の中にカフカの香りがぷんぷんする。「六時に来た女」はヘミングウェイのきざったらしさ(と私は思う)がそのまんま出ている。この短い会話のスタイルがオシャレに感じられたんだろうなぁと思う。この辺の作品は“修業時代”という感じが強くする。

「エバは猫の中に」はサンリオから出ているラテンアメリカ作家のアンソロジーの表題作にもなっているのでよく覚えている。寝ている少女から魂が抜け出して、猫を探しているときの浮遊感が妙に生々しく伝わってくる。この感じはずっと忘れられなかった。これからもきっと忘れないだろう。

■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,高見英一訳
■書誌事項:新潮社 2007年2月16日 341p ISBN978-4-10-509009-8
■目次:
「三度目の諦め」 La tercera resignacion(井上義一訳)
「エバは猫の中に」 Eva esta dentro de su gato(井上義一訳)
「死のむこう側」 La otra costilla de la muerte(井上義一訳)
「三人の夢遊病者の苦しみ」 Amargura para tres sonambulos(井上義一訳)
「鏡の対話」 Dialogo con el espejo(井上義一訳)
「青い犬の目」 Ojos de perro azul(井上義一訳)
「六時に来た女」 La mujer que llega a las seis(井上義一訳)
「天使を待たせた黒人、ナボ」 Nabo, el negro que hizo esperar a los angeles(井上義一訳)
「誰かが薔薇を荒らす」 Alguien desordena estas rosas(井上義一訳)
「イシチドリの夜」 La noche de los alcaravanes(井上義一訳)
「土曜日の次の日」 Un dia despues del sabado(桑名一博訳)
「落葉」 La hojarasca(高見英一訳)
「マコンドに降る雨を見たイサベルの独白」 Monologo de Isabel viendo llover en Macondo(井上義一訳)