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2006年12月

2006年12月10日

コレラの時代の愛

コレラの時代の愛マジック・リアリズムではなく、ストレートなリアリズムで幻想的な恋を描く、1985年の長篇作品を今ようやく読むことができた。

51年と9ヶ月と4日の間、待ち続けたフロレンティーノ・アリーサより、50年以上の長きにわたり、連れ添ったフナベル・ウルビーノ博士とフェルミーナ・ダーサの夫婦愛の方が面白おかしく読んでしまうのも、それもまた私が平凡な人間だからなのだろう。最初は一応アツアツだったが、姑・小姑と同居すると見えてくる夫の優柔不断、愛の欠片を探して旅立ち、その後訪れる社会的にも家庭的にも充実した穏やかな時期、突然やってくる別離の時期、再び戻っていき、夫婦のまま片方は天寿を全うする。二人とも最初から愛があったわけではなく、それぞれの思いがあって結婚したが、少しずついろいろな苦難を越えて行く様がおもしろおかしく描かれている。二人ともきちんと自分の思いを表明して、戦って、対策を実行して、時間をかけて、関係を続けていくのは、本当に一言では表せない。ありきたりだが、紋切り型の言葉では表せないことを、実に微妙に語ってくれる。

「床に落ちたものは拾わない、明かりは消さない、ドアは閉めないという点では完璧な夫だった。」家事を任せたら何もできない。夫の浮気が発覚したため家出したら、2年も経てからようやく迎えに来てもらえて、それでももう失神しそうなほど嬉しい妻。人間ってわけのわからない生き物だなぁと、思わせるエピソードがさりげなくちりばめられている。

しかし、フロレンティーノ・アリーサの方もどこぞの恋愛小説の主人公のように、あるいは童話の主人公のようにただ待ち続けていたわけではなく、とても人間くさく、面白おかしく生きていた。その間の様々な女性たちとの関係も一筋縄ではなく、こちらの方も笑えるエピソードが満載。

どちらの愛がどうということではなく、それぞれが愛なのだなと納得させられる力業。何世代にもわたる歴史ドラマではなく、たった3人の生きた姿をこれだけの大河ドラマにしてしまうところが、さすが稀代の物語作家だなと思った。

映画が撮影中。「Love in the Time of Cholera」だそうだ。そのうち日本でも見られるといいな。

■原題:El amor en los tiempos del c&ocute;lera : Gabriel García Márquez
■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,木村榮一訳
■書誌事項:新潮社 2006年10月28日 526p ISBN4-10-509014-3