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2006年1月13日

サッカー戦争

サッカー戦争■著者:リシャルト カプシチンスキ著, 北代美和子訳
■書誌事項:中央公論社 1993.8.30 ISBN4-12-002235-8
■感想
本書は1960~70年頃のアフリカの独立時代とラテン・アメリカの戦争や革命に関するルポルタージュである。短いルポというかエッセイの集合体で、「サッカー戦争」はその中の一つに過ぎない。1993年に刊行された少し古いルポだが、筆力があるせいか、古さは感じられない。

「サッカー戦争」とは1969年、エル・サルバドルとホンジュラスの間で起きた100時間の戦争のこと。エル・サルバドルからホンジュラスへやって来た不法就労農民をめぐる両国間の感情のもつれが引き起こしたもので、サッカーの試合はきっかけに過ぎないのだが、それでも本当に戦争になるのがすごい。

テレックスをうつために街に出て、命からがらホテルに戻ってくる緊迫感。砲弾に乗っていたトラックが射抜かれた瞬間を「ふーん。こんな感じなんだ‥」的な感想をもつ。よくあるジャーナリスト病で、文明化された国に帰ると落ち着かず、アフリカや中南米の過酷な状況でのみ生きた気がするタイプだ。さまざまな戦争を扱っているが、唐突にギリシャに侵攻されたキプロスの女性たちの話がぐっとくるものがあった。

白人でありながら、大国に蹂躙されたポーランドという国の出身である著者には、アフリカや中南米の植民地支配におかれた国々の惨状に対する思いは中途半端なものではないのだろう。「彼は、アフリカ人だ」アフリカにいるヨーロッパ人に対する最高の賛辞で、これがあれば、すべての扉が開かれる、とある。すさまじい白人差別(?)にあって来た著者の忸怩たる思いが、一気に解放された瞬間だ。

それにしても、一国の政争がまるで小さな村の中のいじましい争いと同じレベルであることに驚かされる。腐敗と革命とが次々と描かれていく。アフリカはだいぶ落ち着いたが、まだまだ変わってないところもあるんだろうな。