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2002年3月 4日

熊を放つ/ジョン・アーヴィング

Setting Free The Bears, 1968

熊を放つ/ジョン・アーヴィング熊を放つ/ジョン・アーヴィング
村上春樹訳 中央公論社 村上春樹翻訳ライブラリー 2008.5.25
上:1365円
ISBN978-4-12-403509-4
下:1260円
ISBN978-4-12-403510-0

ウィーンの市庁舎公園で出会った二人の若者ジギーとグラフ。中古のロイヤル・エンフィールド700ccを駆り、オーストラリアの田舎を旅する二人が見つけたものは、美しい季節の輝きと、手足のすらりとした女の子ガレン。すべてはうまく運ぶはずだった。ジギーが、動物園襲撃などという奇妙な計画を持ち出すまでは...。瑞々しく、痛々しく、優しく、そして未完成な青春を描くジョン・アーヴィングの処女長篇。


アーヴィングのデビュー作。デビュー作と言っても、アイオワ大学での修士論文として書かれたものである。1963年から64年にかけてウィーンに留学していたときの経験に基づき、65年からアイオワ大学のライターズ・ワークショップに入って本格的に長篇を書き始めた。68年に刊行されたが、部数は微々たるものだった。ちなみに日本での刊行は「ガープの世界」の後。
第一部はウィーンの学生グラフとジギーの出会いと旅。サイダーハウス(りんご園)とか熊とか、後々アーヴィング作品に出現するのアイテムがすでに出て来ている。これは作家のウィーン留学時代の体験に基づいて書かれたもの。

第二部は動物園潜入記とジギーの自伝の二部構成。ジギーの自伝の方はドイツ軍によるオーストリア侵攻からユーゴ内戦、ドイツ敗戦が描かれている。ジギーの母親とその家族、母の最初の婚約者の物語。この婚約者がものすごい「変わり者」なのである。この変わり者というキャラクターも延々と続いて出てくることになるのだが、何というか、ともかく「変わり者」なのだ。突拍子もない行動をとる人物、とでも言おうか。
その後はジギーの父親であるユーゴ人(当時はセルヴィア、クロアチア)のヤヴォトニクの物語。ドイツ人のオートバイ隊の体調ヴッドとの出会いとオートバイによる戦争からの逃避旅行。二人は敗戦を迎え、ウィーンに赴く。ヤヴォトニクとジギーの母との出会いや終戦直後のウィーンでの生活が描かれる。
この第二部を読んでいて気づいたのだが、後年の作品に比べると、面白くない。というか、短い話が入れこになっている二部構成という構造自体が悪いわけではなく、どうしてもこの動物園の偵察記が興味を引かれないのだ。そのせいで、中身全体がぼやけてしまった気がする。
アーヴィングの作品というのは非常に長いものが多いが、印象に残るエピソードが多く、長さを感じさせないストーリー展開が特徴。小説を書くために小説を書く、という実験的というよりは、つまらない試みにすぎない小説に対するアンチテーゼのような作家なのに。これが若書きと言うのか?カート・ヴォネガット・Jr.の影響と言われるが、私はカート・ヴォネガットを読んだことがないからわからない。
第三部はグラフが動物園に潜入する話。ジギーの遺志をついで?なのか、ジギーに乗っ取られてしまったのか。ともあれ、展開はスリル満点、結末はなかなか愉快なものとなっている。第二部の停滞感を払拭して、一気にエンディングまでもっていく力に、後年の作家としての力量がかいま見られる。

熊を放つ/ジョン・アーヴィング熊を放つ/ジョン・アーヴィング熊を放つ/ジョン・アーヴィング
初版
1986.5.23 1,500円
ISBN4-12-001480-0
中公文庫 上
1989.3.10 500円
ISBN4-12-201593-6
中公文庫 下
1989.3.10 500円
ISBN4-12-201594-4
 改版 中公文庫
上 1996.2.18 800円
ISBN4-12-202539-7
改訂版 中高文庫 下
1996.2.18 800円
ISBN4-12-202540-0