最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2001年9月14日

むずかしい愛

■著者:イタロ・カルヴィーノ著,和田忠彦訳
■書誌事項:福武書店 1991.12.1 ISBN4-82884034-6
■感想
何の気なしに、ふらりと買った本が面白いと非常に得した気がする。カルヴィーノは現代イタリア文学の巨匠。ちょっとシュールな作風が気に入っていた。ふと古本屋で見かけたので、軽い気持ちで久しぶりに読んでみた。
現代人の日常の断面で展開される12篇のすべてが「ある○○の冒険」(原題通り)と名付けられた短篇で、どれもこれも面白い。特に気に入ったのは「ある旅行者の冒険」「ある読者の冒険」「ある妻の冒険」あたりか。
「旅行者」はローマへの長い夜行列車でのこだわりっぷりがユーモラス。「読者」は海辺で読書する人のちょっとしたアバンチュールを描いているが、読書と現実とのじりじりした関係が何となくよくわかる(私も海辺では本を読むのが常なので)。「妻」の方は特に不貞をはたらいたわけではないが、やむを得ず朝帰りになった貞淑な夫人が門が開くまでの小一時間を過ごすカフェでの様子を描き、普段は接しない、夜遊びの帰りの人や朝の早い工員などに囲まれている、そのことこそ不貞だ、とするオチがいい。なんとなく、どれもこれも「ニヤ」としてしまうオチばかりだが、「ある夫婦の冒険」のように、ほほえましい作品もある。
なかなかエスプリのきいた作品集。文庫本(岩波文庫 1995.4.1 ISBN4-00327093-2 560円)の方はまだ健在。これはオススメできる。